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AIと聞くだけで忌避感を覚える中小企業も取り込む「弥生会計 Next」が想定以上のヒットの理由

2025.07.04 2025.07.03 17:16 企業
AIに抵抗感のある中小企業も取り込む「弥生会計 Next」が想定以上の販売数でヒットの理由の画像1
「弥生会計 Next」

●この記事のポイント
・これまで会計ソフトに馴染みのない企業にも使ってもらえるよう、新製品を開発した
・「使い始め、日常での利用、数値データ活用」の3つのシーンでの使いやすさを追求している
・勘定科目の登録や資金予測においてAIを活用している

クラウド会計ソフトの市場が拡大する中、弥生株式会社は2025年4月に法人向けクラウド会計サービス「弥生会計 Next」を正式リリースした。これまで会計ソフトには馴染のなかった中小・零細企業にも利用してもらえるように、徹底的に使いやすさにこだわった新製品は市場での評価も高く、発売後は当初の想定を上回る販売量を達成している。ユニークなのは、AIと聞くだけで忌避感を覚えてしまうような中小企業の経営者や経理担当者もターゲットとしている点だ。顧客層として重視している点だ。AIを活用してユーザーが極力“かんたん”使えるよう工夫しているにもかかわらず、AI活用という点をあえて強調していないという。従来の会計ソフトの枠を超えた今回の新製品は、これまでの製品と何が大きく異なるのか。開発責任者である同社次世代本部 次世代戦略部の広沢義和部長に開発の背景や製品の特徴、今後の展望について話を聞いた。

●目次

会計ソフトをもっと多くの企業に使ってもらいたい

──今回の新製品の狙いについてお聞かせください

当社では元々クラウド会計ソフトを提供していましたが、より多くの新しいお客様を獲得したいという理由から、新たなクラウド製品の開発に着手しました。毎年実施している、外部調査における、会計ソフトの利用率調査では、会計ソフトの利用率はおよそ35%から40%くらいとなっています。年々増加傾向にはありますが、それでもまだまだ使われていない方の割合が多いのです。

したがって、まだ会計ソフトに馴染みのない方や、潜在的なお客様に対して、より積極的に接点を持ちたいと考えました。潜在需要の掘り起こしという狙いから今回の新製品開発に取り組みました。

──どういった理由でこれまで使われていない方が多かったのでしょうか

当社で調査をした結果、大きく二つの理由があると考えています。一つは「会計ソフトはとっつきにくい」という心理的なハードルですね。「本当に自分に使いこなせるのか」と思われてしまうようです。

そして二つ目が物理的なハードルです。導入してみたものの、やはり実際の操作の部分でつまずいてしまい、結局使わなくなったといった声もお聞きしています。このような心理的なハードルと物理的なハードル、この二つを解消してあげることがポイントになると考えました。

ですので、今回最もこだわった点は「いかに簡単に使えるか」を追求した操作性です。このためUI(ユーザーインターフェース)には徹底的にこだわりました。

3つのシーンで使いやすさを追求

──UIはどういった点にこだわったのでしょうか

具体的には三つのシーンを想定してこだわりました。一つは「使い始めの簡単さ」。せっかく会計ソフトを導入しても、最初に様々な設定をしなければならないことが大きなハードルとなり、ユーザーが離脱してしまう原因となっています。このため、できる限りシンプルで少ない手順で完了できるような工夫をしています。

二つ目は「導入後の簡単さ」です。日常的に利用されるシーンでも「いかに心地よく使ってもらえるか」にこだわりました。帳簿付けなど毎日行う作業の操作感について、細かい部分まで心地よさを追求しています。

三つ目としては「数値データの扱いやすさ」です。会計ソフトを利用することで様々な情報を集めることができるので、これをいかにお客様の経営に役立ててもらえるかが重要です。会計ソフトとして一番の価値を提供できる部分ですので、画面上の数値の見やすさや数値分析のしやすさなどを考慮しています。

──具体的にどのような取り組みをされたのでしょうか

今回の開発プロジェクトでは、商品開発の担当者だけでなくデザインUI/UXデザイナーやリサーチャーなど、様々な役割の人間が一丸となって何度もディスカッションを繰り返しました。どういう顧客体験、どういうUIがあるべきなのかという点について、納得いくまで議論して製品仕様に反映しています。

また開発面では、アジャイル開発手法の一つであるスクラム開発を取り入れました。開発プロセスの早い段階でプロトタイプを製作し、このプロトタイプに対してお客様からフィードバックをもらって改善するというサイクルを何度も繰り返しています。特にUIのデザインについては、お客様から数多くのフィードバックをいただきました。そういったご要望に忠実に対応することで、製品を磨き上げることができたと思います。

AI活用でさらなる価値提供に繋げていく

──AIを活用した機能が追加されていますが、どういった部分でAIを活用していますか

会計ソフトを利用するにあたり、会計の専門用語の理解が必要になります。例えば書籍を購入したら、ソフトには「新聞図書費」という科目で入力しなければならないのですが、専門用語なので馴染みがなくわからないということも多いと思います。会計の専門用語ですので、なかなか馴染みのない方が多いと思います。こういったケースではAIを活用して、取引内容から自動で勘定科目を判別できるようにしています。

他にもAIを活用した資金予測の機能を追加しました。簡単に言うと過去3ヶ月間の現預金の情報から、その先3ヶ月間の現預金の推移を予測するという機能です。ここでもAIを活用しています。

今後は、特に経営支援に関する部分において、AIを活用していきたいと考えています。まだ具体的な内容はお伝えできる段階にはないのですが、積極的にAIの機能を取り入れていく予定です。

例えば、財務諸表の情報から問題や課題に関する情報を提示して、改善のためのアクションに繋げやすくすることを考えています。会計の情報からPLやBSなどの財務諸表を作成しても、そこからどんな問題や課題があるのかを読み解くのは会計知識の無い一般の方ではなかなか難しいと思います。ですので、AIが「御社は人件費率が高いことが問題です」「御社は仕入れ原価が少し高止まりしていることが利益低下の原因です」といった情報を提示するイメージです。

──会計分野以外にも勤怠や労務管理への機能展開が図られていますが、今後はどのように提供価値を広げていく予定ですか

当社では、中長期的にはバックオフィス業務の自動化を目標に掲げて取り組んでいます。会計だけでなく給与計算や労務管理を含めて、これらが相互にデータ連携して自動化できるような形を作り上げていきます。そしてお客様からのフィードバックを適時反映しながら、段階的にアップデートしていくことを試行しています。

当社の製品サービスの二つの柱として「業務の自動化」と「経営支援」がありますが、「業務の自動化」については自動化レベルのさらなる磨き込みをしていきます。また「経営支援」については、今回の資金予測がまず第一歩ですので、そこからいかに価値の拡充をしていくかを検討中です。当面はこの二本の提供価値をさらに大きくできるようにしていきたいですね。

中小・零細企業の経営改善のためには財務会計データの分析が不可欠だが、現状ではまだまだ活用できていない企業が多いと思われる。今回追加された資金予測の機能は、経営改善に向けた取り組みの第一歩を後押しするのではないだろうか。誰でも使えるUIを採用することによって、より多くの企業に対して経営改善に向けた気づきを与えることが可能になるはずだ。今後の「弥生会計 Next」の新たなサービスに期待したい。

(文=伊藤伸幸/中小企業診断士、ライター)

伊藤伸幸/経営コンサルタント、中小企業診断士、ビジネスライター

伊藤伸幸/経営コンサルタント、中小企業診断士、ビジネスライター

1966年愛知県生まれ。関西大学社会学部卒。新卒で精密機器メーカーに就職し、営業職を経験後、商品企画、経営企画、事業企画など30年近く企画系の業務に従事。中小企業診断士の資格取得後は、経営ビジョン・戦略策定、重点施策管理、提案書作成など、企業が成長していくために必要となる一連の言語化作業のサポートを中心に活動している。得意分野は事業戦略、方針管理、マーケティング、ビジネスライティング全般。
いとう戦略ライティング事務所の公式サイト

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