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「10分カット」が世界を席巻?QBハウス、国内好調も海外進出で100億円戦略

2025.09.27 2025.09.29 20:07 企業
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QBハウスの店舗(提供:キュービーネットホールディングス)

●この記事のポイント
・国内で成功したQBハウスが、7カ国展開を加速。2029年に海外売上100億円を目指し、新たな成長の柱を築く。
・北米では高価格帯で少数精鋭、アジアではドミナント展開と、各市場に合わせた柔軟な戦略を展開中。
・成功の鍵は人材育成と品質維持。日本発「10分カット」が現地化しながらグローバルブランドへ進化する。

「10分1400円」で知られるヘアカット専門店「QBハウス」。1996年の創業以来、日本国内での急拡大を経て、同社は2002年から海外市場に挑戦してきた。現在ではシンガポール、香港、台湾、アメリカに加え、カナダ、ベトナム、マレーシアへと展開し、計7カ国で事業を展開している。

 この海外展開の最前線を担うのが、キュービーネットホールディングス株式会社の取締役であり海外事業責任者の山本祐樹氏だ。今回の取材では、20年に及ぶ海外事業の歩み、各国市場での戦略、そして人財育成の裏側について話を聞いた。

●目次

20年続く海外展開の歴史

 QBハウスの海外事業は、2002年のシンガポール進出が最初の一歩だった。その後、香港、台湾、アメリカへと広がり、アジアと北米の双方で存在感を示すようになった。

 山本氏は当時をこう振り返る。

「シンガポール、続く香港進出時は、今でこそ類似競合が多数存在しますが、当初は我々がフロントランナーでした。市場に“短時間でお手軽な均一料金ヘアカット専門店”という新しい概念を持ち込み、最初に地盤を築けたことが大きかったと思います」

 香港では現在60店舗を超え、シェアトップを維持している。一方シンガポールでは類似競合も増え、店舗数では3位となるなど、市場環境は刻々と変化している。

コロナ禍を経て再加速した出店戦略

 コロナ禍では一時的に店舗閉鎖や出店停滞を余儀なくされた。しかし2023年、海外事業本部を新設。従来の“現地分散型”から、本部主導の戦略立案・横断的サポート体制へと大きく舵を切った。

 その成果として、2023年以降は新規国展開が相次ぐ。カナダ(トロント)、ベトナム(ホーチミン)、マレーシア(ジョホールバル)が加わり、7カ国体制となった。

「シンガポールに近いジョホールバルでは、既存リソースを活かしながら出店しました。今後はクアラルンプールや台湾の地方都市など、既存国での多都市多店舗化も視野に入れています」

 国内ではすでに2025年6月期末で585店舗を超えているものの、出店の余地はまだある。一方で人口減少や理美容師不足など、日本特有の課題も顕在化している。

 山本氏は、海外展開の意義をこう語る。

「一つはポートフォリオの分散。香港に依存している現状を改め、複数国での収益基盤を作る必要があります。もう一つは、日本市場が頭打ちになりつつある中で、海外を新たな成長の柱に育てるということです」

 同社は中期計画として、全社売上高を約355億円へ拡大し、そのうち2割を海外事業で担う方針を掲げている。

北米とアジア、市場の違い

 興味深いのは、北米とアジアでの戦略の違いだ。

 北米では1回のカット料金がアメリカで35ドル(約5000円前後)、カナダでも4000円を超える水準。通常のサロンがチップを含めれば1万円以上かかることを考えれば「リーズナブル」だが、日本の感覚とは大きく異なる。加えて、家賃や人財採用の難しさから、多店舗展開ではなく「一都市での高収益モデル」を志向している。

 一方、アジアでは香港やシンガポールで数十店舗を構え、台湾やベトナム、マレーシアでも拡大を狙う。「ドミナント展開」と呼ばれる地域集中型の出店戦略が有効で、日本に近いビジネスモデルが通用する。

 QBハウスの強みは「10分カット」というシンプルなモデルだが、海外では必ずしも“10分”にこだわらない。

 北米では髭のお手入れなど日本では提供しないサービスを追加し、施術時間もやや長め。台湾ではスタイリングを含めた形で展開し、現地価格水準に合わせて350台湾ドルで提供している。

「QB事業の軸足は変えずに、現地のニーズに応じたアレンジを加える。これが差別化につながっています」

人財確保と教育が最大の鍵

 山本氏が繰り返し強調したのは「人財の重要性」だ。

 アジアでは理容師・美容師の国家資格がない国も多く、異業種からの未経験採用も可能。その場合、6カ月間の研修を経てスタイリストデビューする。香港と台湾には自前の技術スクール「ロジスカット」があり、計画的な人財育成を行っている。

 北米では即戦力の経験者採用が中心だが、QB独自の施術スタイルを浸透させるため、日本人技術者を駐在させ、現地で直接トレーニングを行う。

「小売業とは違い、商品はなく、人財こそがサービス品質そのもの。誰を採用し、どう育てるかが成功の分かれ目です」

 現在、海外店舗はすべて直営で運営されている。初期にはフランチャイズの試みもあったが、サービス品質やブランド維持の観点から直営に一本化した。

「直営であれば本部の意思が伝わりやすく、軌道修正もスムーズです。ただ、将来的に国によっては合弁やフランチャイズも検討余地はあるでしょう」

今後の注力市場はアジア…日本品質を世界へ

 今後の成長の鍵はASEAN市場だ。ベトナムとマレーシアは1号店を出したばかりで、これからの本格展開に期待がかかる。両国ではイオンモール内に出店し、集客力を活かした認知拡大を狙う。

 同時に、香港やシンガポールといった成熟市場では、新業態や付加サービスの開発にも取り組み、既存顧客の満足度向上を図っている。

 日本人駐在者や現地の日本人利用者からは「日本と同じ品質で安心した」という声も多い。一方で「日本より価格が高い」と驚かれることもある。しかし顧客の大多数は現地の人々であり、彼らに納得されるサービス提供こそが持続的成長の条件だ。

「最初は“日本人に切ってもらいたい”というお客様もいましたが、今では現地スタッフがしっかり技術を身につけ、お客様に選ばれています。日本品質を現地化することが、信頼とブランド力につながるのです」

 QBハウスの海外展開は、単なる「日本式の輸出」ではなく、各国市場に合わせた柔軟なローカライズと、人財育成への徹底投資によって成り立っている。

 その姿勢は、海外進出を志す日本企業にとって大きな示唆を与える。

・現地ニーズに耳を傾け、サービスを柔軟に調整すること
・人財こそ最大の資産であり、教育体制が差別化の源泉であること
・直営で品質を守りながらも、市場に応じて新たなモデルを模索すること

「10分カット」というシンプルなビジネスモデルが、世界各地で異なる形に進化しながら広がっていく。その過程は、日本発ブランドがグローバルで生き残るための実践的なケーススタディといえるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)