ビジネスジャーナル > 企業ニュース > 「単なる改良ではない」…パナソニック、世界一苦い電池で子どもの誤飲ゼロに挑む

「単なる改良ではない」…パナソニック、世界一苦い電池で子どもの誤飲ゼロに挑む

2025.12.18 2025.12.18 11:45 企業

「単なる改良ではない」…パナソニック、世界一苦い電池で子どもの誤飲ゼロに挑むの画像1

●この記事のポイント
・乳幼児によるコイン形電池の誤飲事故が社会問題となる中、パナソニックが「苦み成分」を塗布した新型電池を開発。注意喚起に頼らない“設計による安全対策”の狙いを追う。
・誤飲抑止と電池性能の両立という難題に挑んだパナソニック。苦み成分の量や塗布位置、生産体制まで、開発現場での試行錯誤と技術的ポイントを解説する。
・電池誤飲は15分で粘膜損傷が始まる危険な事故だ。小児科医の警鐘とともに、誤飲時の正しい対処法や、家庭で選ぶべき安全配慮型製品の重要性を伝える。

 乳幼児によるコイン形電池の誤飲事故が社会問題となる中、パナソニックエナジーは12月12日、東京都内で「苦み成分塗布 コイン形リチウム電池」の体験取材会を開催した。

 同社は10月、乳幼児などの誤飲対策として、苦み成分を塗ったコイン形リチウム電池を発売。万が一、子どもが誤って口に入れた際すぐに吐き出したくなるようにしたものだ。同社によると国内メーカーとして初めての取り組みだが、体験会は、実際にどれほどの苦みがあるのかを確認してもらう目的で開かれた。

 開会のあいさつで国内マーケティング部の福山統之氏は「単なる製品改良ではなく、子どもの命を守りたいという思いのもと、正面から向き合う当社の姿勢を示すもの」と強調した。

「単なる改良ではない」…パナソニック、世界一苦い電池で子どもの誤飲ゼロに挑むの画像2

 リモコンや小型のスマートデバイスなどにはコイン形・ボタン電池が多く使われており、近年、子どもの誤飲事故が社会問題となっている。東京消防庁によると、2020~2024年に東京都内で起きた5歳以下の子どもの誤飲や窒息による救急搬送は5825人に及び、そのうち約200人が電池に関連していたという。

 パナソニックが、子どもを持つ20~40代の男女へ行った調査では、未就学児の家庭内事故において最も心配しているのは「転倒」や「やけど」を上回り、「誤飲」だった。対策をしても約3割の保護者が完全には防ぎきれていないと考えており、「家庭の注意」に加え、「メーカーの安全設計」に期待していることがわかった。

技術的ポイントは苦み成分の量と場所

「単なる改良ではない」…パナソニック、世界一苦い電池で子どもの誤飲ゼロに挑むの画像3

 苦み成分は、単に塗ればいいということではない。製品技術担当の古橋卓弥氏は「成分量が多すぎると、電池本来の役割である通電が不良になるリスクが高まる。一方、苦み成分量が少なすぎれば誤飲抑制効果は小さくなる」と、このトレードオフが開発の肝だったことを説明した。

 そこで、通電不良が起きにくい適切な成分量と、塗る位置を試行錯誤。社内検証や、倫理審査を踏まえた安全確認テストを慎重に繰り返し、製品化に結び付けた。

 そして、この製品を工場で大量生産する体制を作り上げることでも苦労したそうだ。

「私たちは年間数千万個以上の電池を生産しており、同規模な数量の苦み成分を安定した品質で実施する必要があった。今回は新規設備の立ち上げだったため、何度もインドネシア工場と日本を往復し現地メンバーと施策改善を重ねた。その結果、安定して製品をお届けすることができている」(古橋氏)

 電池本体の負極面に塗布してあるのは「安息香酸デナトニウム」という苦み成分。デナトニウム(Denatonium)は「世界一苦い物質」として知られる有機化合物で、主に安息香酸デナトニウムの形で、誤飲防止剤として洗剤、化粧品、玩具、工業用アルコール、不凍液、SDカードなどに添加されている。10億分の1の濃度でも苦みを感じるほど強烈だが、人体には安全で、製品の安全性を高めるために世界中で利用されている。

 一般的に子どもは大人よりも苦みを感じやすいという。電池に塗布されているのは大人でも不快になるほどの苦みだけに、子どもがもし口にしたら、さらに強く苦みを感じるだろう。

誤飲の際、無理に吐かせるのは誤った対処法

 パナソニックが行ったアンケートによれば、コイン形・ボタン電池に関する誤飲の危険性は認識されているものの、初期対応にはばらつきがあった。正しい対処である「すぐに救急に連絡・受診する」が最多だったものの、「すぐに吐かせる」といった誤った対応も2番目に多かった。無理に吐かせようとすると気管に入り窒息のおそれがあるからだ。なお、「誤飲しても吐き出す工夫のある電池を選びたい」と回答した保護者は7割超にのぼった。

 小児救急医療に長年携わってきた松下記念病院小児科の磯田賢一部長が登壇し「20mm以上の大型リチウム電池は、食道にとどまりやすく、食道などの消化管の粘膜に、電池の化学反応による腐食性炎症の“化学やけど”のような状態になる」と危険性を説明した。飲み込んで15分で粘膜に変化が生じ、危険な粘膜損傷が2時間で始まることにより、「食道に穴があく」といった重篤な合併症の可能性も指摘した。さらに、摘出後も後遺症などの心配がある。

「単なる改良ではない」…パナソニック、世界一苦い電池で子どもの誤飲ゼロに挑むの画像4

 クリスマスや年末年始の帰省先など、いつもと違う環境では誤飲リスクが高まることも指摘されており、消費者庁などが注意を呼び掛けている。

使用推奨期限を従来の5年から10年に延長

 苦み成分塗布以外の誤飲防止策として、従来品と同様、乳幼児が簡単に開封できない誤飲対策パッケージを採用している。また、誤飲注意を促すピクトグラムも電池とパッケージに刻印した。

「単なる改良ではない」…パナソニック、世界一苦い電池で子どもの誤飲ゼロに挑むの画像5

 新製品の特長としては、使用推奨期限を従来の5年から10年に延長したことが挙げられる。コイン形リチウム電池を使用する機器が増え、電池交換の頻度も高まっているため、家庭で安心してストックしておけるようにしたという。防災用途としても対応している。

「単なる改良ではない」…パナソニック、世界一苦い電池で子どもの誤飲ゼロに挑むの画像6

今回の新製品は2026年4月より海外展開も予定しており、36カ国以上へ順次展開する。パナソニックエナジーは「家庭内事故は注意喚起だけでは防ぎきれない。製品そのものの設計でリスクを下げていく」としており、今後も安全配慮型製品の開発を強化していく考えだ。

(取材・文=横山渉/フリージャーナリスト)

※本稿はPR記事です。

横山渉/フリージャーナリスト

横山渉/フリージャーナリスト

産経新聞社、日刊工業新聞社、複数の出版社を経て独立。企業取材を得意とし、経済誌を中心に執筆。取材テーマは、政治・経済、環境・エネルギー、健康・医療など。著書に「ニッポンの暴言」(三才ブックス)、「あなたもなれる!コンサルタント独立開業ガイド」(ぱる出版)ほか。