どのような不満体験かというと、例えばある場所で宴会の幹事をしたのだが、あらかじめインターネットサイトで調べて申し込んでおいた割引サービスが受けられなかった。「なぜ割引が受けられないのか?」と訊ねたところ、どうやらサイトの記述を間違えていたのである。間違いなのだが、お店の現場では割り引くことができないので、申し訳ないが了解してほしいということを、店長が何度も頭を下げて私に謝ってくるのだ。
あるメーカーの商品を購入した際には、ホームページ上で確認した追加特典が実際にはついていないことが購入した後にわかった。カスタマーセンターとメールのやりとりをしたが、結局、この追加特典は提供することができないという。これ以上どうしようもないという話で、どちらも筆者は泣き寝入りをすることにした。どちらも1万円以内の損害なので、それ以上のコストはかけたくなかったという事情もある。
その上で、冒頭のノードストロームやナショナルレンタカーの例とは逆に、顧客としての筆者は、二度とこれらの企業は使わないと決めてこの話は終わりにしている。
●現場から奪われる権限
さて、以上の事例から、日米では何が違うのかを考えてみると、一言でいえば「現場に権限があるのかどうか」である。
世界で最高のサービスを提供することで知られているホテルのリッツ・カールトンでは、現場の従業員一人ひとりに1000ドル(約10万円)の決済権限があるという。ノードストロームやナショナルレンタカーがどういう規則になっているのかは詳しくは知らないが、どちらの例でも従業員が一人、お客様のために数時間も現場をあけて奉仕する判断が即断でできるようになっているわけだから、最低でも1万円相当のコストをお客様に対して判断できる権限を持っているということだろう。現場に一定の権限があるからこそ、感激を生むサービスが提供できる。
ひるがえって日本企業を見ると、現場判断の権限をはく奪する傾向がある。これはサービスを設計する側を知っている筆者は理解できるのだが、現場がうかつにサービスを提供してしまうと、それがインターネット上で話題になって、他の消費者が別の店舗で同じようなサービスを強要するようなことが起きるリスクがある。
ゲーム会社に対してクレームをすればポイントがもらえるという情報や、商品をレシートなしで返品してもらえるという情報などが瞬時に日本中に知れ渡る状況にある。だから事業責任者は、「そのような判断は現場ではせずに、本社に判断を仰ぐように」
と指示をするのである。結果としてモンスタークレーマーへの対応も上手になり、タダ乗りユーザーへの出費は減っている。
だが、同時に、会社の手違いで損を被った普通の顧客の不満は増えている。増えているだけでなく、そのことで離れていった顧客が何人いるのか、その数字は会社には見えてはいない。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)