数多くの大企業のコンサルティングを手掛ける一方、どんなに複雑で難しいビジネス課題も、メカニズムを分解し単純化して説明できる特殊能力を生かして、「日経トレンディネット」の連載など、幅広いメディアで活動する鈴木貴博氏。そんな鈴木氏が、話題のニュースやトレンドなどの“仕組み”を、わかりやすく解説します。
米国企業では、最高のサービスを象徴する事例が社内で伝承されていることが多い。
百貨店のノードストロームでは、気に入った靴を購入しようとしたがぴったりのサイズを切らしていることを知った顧客に対する、伝説のサービスが伝承されている。その現場の従業員は、「ぴったりのサイズの靴を探してみます」と言って、近隣のいくつかの店舗に電話をして、そのサイズの靴を探した。その上で、「よろしければ今から取りにいって参りますので、その間、店内で別のお買い物を済まされてはいかがでしょうか?」と顧客に提案したという。感激した顧客は、他の売り場でたくさん買い物をしたうえで、もちろんこの靴も購入し、自宅に帰った。その後も、ノードストロームの大切なお客様であり続けているという。
米国のレンタカー会社ナショナルレンタカーには、こんな伝承がある。出張で空港のレンタカー事務所に到着したある顧客が車を借りようとしたのだが、残念なことに数日前に免許証の期限が切れていた。「申し訳ありませんが、免許証が切れているお客様に車を貸し出すことはできません」。法律面でも保険の面でも、できない規則なのだそうだ。しかし、アメリカでは車がなければ予定した出張がこなせない。困りきった顧客に対して、「しかし車で目的地までお送りすることはできます」と事務所のマネジャーが提案をした。
運がよいことに、この顧客の運転免許証を発行した場所と、この空港は同じ州にあったため、出張での最初のアポイントを済ませた後、ナショナルレンタカーのマネジャーはこの顧客を運転免許証事務所まで送った。無事免許を更新し、車も借りることができ、この顧客はそれから後の出張業務も無事にこなすことができた。これだけのサービスをしながら、マネジャーは、免許が無事ととのった後のレンタカー料金以外の請求をしなかったという。感激した顧客は、ナショナルレンタカーのCEOに感謝の手紙を書き、以来、この話は社内でことあるごとに伝承されているという。
●不満を感じるクレーム対応、その共通の原因とは?
さて、従来、日本企業は「商品は優れているが、サービスは米国企業から学ぶことが多い」といわれてきたが、最近はこの差が狭まるどころか広がる傾向がある。
実はあるメカニズムが理由になって、日本企業は最高のサービスを失いかけているのだ。
筆者個人の経験で、ここ数カ月の短い間に日本のいわゆる大企業の商品やサービスへのクレーム対応で、非常に不満が残る経験を3度もしている。最初は個別の問題だと思っていたが、あとから振り返ると、どのケースにも共通の原因がある。