シチズン、ブランド化を阻む経営トップと広報部のお寒いマインド
それとほとんど軌を一にして、精度においては劣るが、工芸品的な良さを持つ、スイスメーカーの「ロレックス」「オメガ」などを筆頭に精密機械式腕時計が見直され、加えて、ファッショナブルなスウォッチが投入され、日本メーカーは中国、香港製の廉価品との板ばさみ状態に陥る。こうして日本メーカーは、90年代以降、苦境が続くのである。
そうした状況下にあってシチズンは、太陽光発電によって駆動する「エコ・ドライブ」を世界のメーカーに先駆けて開発、加えて、世界各地の電波塔から発信される標準電波を受信し時刻を自動的に調整する「電波腕時計」でも先行した。「エコ・ドライブ電波腕時計」は電池を交換する必要なく、時間合わせも不要という便利な腕時計ということになる。
シチズンは、「ATTESA」「EXCEED」といった高級シリーズで、この2つの機能を搭載、スイスウォッチには及ばないが従来の同社のブランドから見ればかなり高い、8万〜20万円台の価格帯で販売、現在も好評だと伝えられている。つまりこの2つを手に入れることで、シチズンはクォーツ以後、ようやく戦える態勢が整ったのだといってよい。
前社長「月10万円あれば人は食っていける」
だが、先に述べたようなさまざまなブランドの要件から見て、シチズンがスイスの高級腕時計メーカーに対抗して国際的なスーパーブランドになりうるかというと、ネガティブと判断せざるを得ないのだ。
あるシチズンウォッチャーの新聞記者が、こう語る。
「ブランドは経営品質と不可分なんだが、シチズンの場合、前社長の金森充行氏、前々社長の梅原誠氏が事実上トップとして失格の烙印を押されて交代している。これではとても経営品質なんて言っていられない。実は私は前社長と話していて驚いたことがある。ちょうど若者の失業が社会的に問題になっていた時期だったんだが、前社長は『月10万円もあれば食っていける』と言ってはばからない。『部屋代払って、食費や交通費、電話代などすべて、10万円で払えるとはとても思えませんよ』と言うと、『いや、大丈夫だ』と譲らない。高級腕時計を手掛ける企業のトップの発言としては、いかがなものでしょうか。そのとき思ったのは、この人には弱者に対する愛情がないんだということ。もうひとつは、人の意見はかたくなに聞かない人だなという点。後に会長ではなく相談役に引かざるを得なかったと聞いて、当然だと思いましたね」
その点では、創業家・服部一族の内紛でごたごたが続いたライバル「セイコー」を笑えないと、記者は語る。
ちなみに、シチズン前々社長の梅原氏は技術畑出身で、02年から08年まで務め、取締役相談役に退いた。前社長の金森氏は海外畑が長い人だが、08年から12年まで4年間社長を務めただけで、同じく取締役相談役に退いている。どちらも人の意見を聞かないタイプとの評がある。金森氏は納涼会にも顔を出していたが、記者たちはもちろん、シチズンの経営幹部も近寄ろうとはしなかった。