シチズン、ブランド化を阻む経営トップと広報部のお寒いマインド
挨拶に立ったのは、3月末に就任したばかりの戸倉敏夫社長。「時計産業は新興国で需要が拡大しており、成長産業だ。わが社としては『シチズンブランド』の時計を『エコ・ドライブ』機能を核にして、ブランド価値を高めていきたい。また『シチズンブランド』でカバーできない高価格帯の機械式ムーブメントに関しては、(スイスの高級腕時計メーカー)ブローサー社を買収した。これにより、将来の成長領域を広げていきたい」と述べ、ブランド戦略を強化していくことを強調した。
戸倉の意図はわからないではないが、シチズンのブランド価値向上への道のりは遠いといわざるを得ない。
いい商品ができればブランディングは可能?
というのは、まず戸倉を含めてシチズン社内の認識は、相変わらず「いい商品さえつくればブランディングが可能だ」という古い考え方から、抜け出ていないと見られるからである。
ブランドというのは、機能面だけでなく、ファッション面などほかの面でも優れた商品であることが第一だが、それだけではない。バックに優れた企業文化がなければならないし、優れた経営と経営者、ものづくりに専心努力する技術・技能者、顧客に信頼される営業部隊などがなければならない。つまり、トップから受付の社員に至るまでが、自社ブランドを尊重し、それを自分たち1人ひとりが支えているのだという自覚の下に、働いていることが大事なのである。それによって、ブランドを支持してくれる厚いステークホルダーが構築されるのである。
この点においても、シチズンには残念ながらブランド化を標榜するには、いささか欠格条件が多すぎるのだ。
1960年代末にセイコーが水晶振動子を用いたアナログ(針式)腕時計を世界のメーカーに先駆けて開発、シチズンも追随し、日本製の高品質低価格の腕時計は「クォーツショック」を世界の時計産業に巻き起こし、機械式中心の高級スイスウォッチを破滅寸前にまで追い込んだ。日本のウォッチは世界市場を席巻する勢いで、70年代には世界の主要空港のタックスフリー・ショップで、セイコーやシチズンの商品は我がもの顔で並んでいたものである。
目先の利益を追いかけ、ブランド化に失敗
ところがこの時期、セイコーもシチズンもブランド力の強化に進むのではなく、技術のキーとなる水晶振動子というムーブメントを、外販することで儲ける方向に走った。
ブランド力確保より、目先の利益を追っかけたのである。
結局これが命取りになる。つまり香港や中国のメーカーが、日本メーカー製のムーブメントを使って、性能は高いが値段はべらぼうに安い時計を、世界に垂れ流しだしたのである。最近流行語になっている「モジュール化生産システム」の走りといってよい。