ファイザーは4月28日、アストラに買収を提案したと発表した。買収額は1000億ドル(約588億ポンド、約10兆2000億円)。実現すれば製薬業界としては過去最大のM&Aが成立したことになる。ファイザーは5月2日、買収額を43億ポンド積み増し631億ポンドとし、さらに18日には、693億ポンドと1割上乗せし、ファイザーは“本気具合”をみせた。これに対してアストラの取締役会は5月19日、「当社の価値を過小評価している。株主に不確実性とリスクをもたらす」との声明をあらためて発表した。
ファイザーによると、同社は14年1月にアストラゼネカ株を1株46.61ポンドで買収すると提案したが、アストラが断った。ファイザーはいったん提案を取り下げた後、4月26日に再び交渉を申し入れたという。買収案はアストラの株価に30%のプレミアムを付けた上で、アストラの株主に対し、現金で3割、残り7割をファイザーの株式で支払うかたちにするというものだった。ファイザーのイアン・リード会長兼CEOは声明で「世界中の患者たちが、私たちが共有する研究開発から利益を得られると考えている」と述べた。13年の売上高は両社合わせて773億ドルに達する。
ファイザーは5月16日にはアストラの株主に1株当たり53.5ポンドを割り当てる提案を示した。アストラの取締役会は、この提案を10%上回る水準(58.85ポンド相当)に引き上げれば「株主に(M&Aに)賛同を勧める用意があった」としている。しかし、ファイザーの最終提案は同55ポンドにとどまり、アストラの取締役会は拒否を決めた。
ファイザーは敵対的TOB(株式公開買い付け)の可能性は否定している。それでも世界首位を目指す戦略をあきらめたわけではない。いったんは仕切り直しになったが、次はどんな球を投げてくるのだろうか、世界の製薬業界が注目している。
●アストラ、政府の側面支援受け徹底抗戦
ファイザーのリードCEOはキャメロン英首相に書簡を送り、M&Aに理解を求めた。だが、キャメロン首相はニュートラル(中立)との見解を示し、英議会は強くこのM&Aに反対した。
現在のアストラはスウェーデンの旧アストラと英国の旧ゼネカが合併した会社で、英国、スウェーデン政府の側面支援もあり、現アストラ経営陣はファイザーの4度にわたる提案に強く「ノー」を突き返した。
その間、アストラは23年までに売上高を13年実績比75%増となる450億ドル(約4兆5800億円)とする収益見通しを発表し。アストラ側は独自に10年後の収益拡大策を示し、自社の企業価値が高いことを株主に納得してもらう作戦に出た。これもM&Aに対する有効な自衛策である。
●J&J、GSK、バイエル…加速する合従連衡の動き
独製薬・化学大手のバイエルは5月6日、米製薬大手メルクの一般用医薬品などのコンシューマーケア事業を142億ドル(約1兆4500億円)で買収すると発表。バイエルは買収で一般医薬品の事業規模を一気に74億ドルに拡大する。メルクのコンシューマーケア事業で、日本でもなじみがある商品はアレルギー治療薬の「クラリチン」や日焼け止め「コパトーン」などだ。バイエルは「アスピリン」という看板商品を持っている。