「スマホで野菜を買う」。現場感覚ゼロの経営企画担当者が、いかにも思いつきそうなアイデアである。ドコモのユーザーがスマホを使って野菜を注文する、と本気で思っているのだろうか?
思い起こされるのはユニクロの失敗である。ユニクロを運営するファーストリテイリングは02年9月、子会社エフアール・フーズを設立し、「SKIP」というブランド名で生鮮野菜のインターネット通販を始めた。販売の柱となるのは会員制の定期購入クラブ「SKIPクラブ」。隔週ごとに「おまかせ」で旬の野菜や果物の詰め合わせが届く。全量買い上げ契約を結んだ全国500余の農家が生鮮野菜を提供した。
余分な水と肥料を極力抑え、自然本来の持つ力を引き出すという永田農業研究所が提唱する「永田農法」で生産した野菜というのがセールスポイントだった。時間をたっぷりかけて作るこの農法の野菜は、糖度の高いトマトなどで有名だった。普通のスーパーの野菜よりは高くなるが、安全が売り物。03年には松屋銀座地下の食品コーナーに生鮮野菜売り場を出店したのを皮切りに、5つの直営店を出した。
だが、生鮮野菜の販売は大失敗。04年3月、エフアール・フーズは解散して、野菜の販売事業から撤退した。価格の高さと会員制コースの使い勝手の悪さがネックとなり28億円の赤字を出した。
当時ユニクロは、フリースのブームが去り、停滞期に入っていた。行き詰まりを打破するために、元気が出る革新的プロジェクトとして野菜の販売に乗り出した。柳井正会長(現・会長兼社長)は「ユニクロ方式がまったく別の業種・業態である農業の世界で通用するか、やってみなければわからない」と語っていた。
失敗だとわかったら、いち早く撤退するのが柳井氏の真骨頂だ。「失敗しても会社がつぶれなければいい。失敗するなら早く失敗して、早く修正すればいい」との考え方は、この時から一貫している。
新規参入がうまくいくとは限らないのだが、農業に進出する企業は多い。
読者諸氏は、トヨタ自動車がこの分野に進出していることをご存じだろうか。トヨタは01年、インドネシアのスマトラ島にトヨタ・バイオ・インドネシアを設立し、100ヘクタール余りの農場でサツマイモの栽培を始めた。このサツマイモは日本に輸入され、鹿児島で黒豚の飼料となり、鹿児島産の焼酎にも一部利用されている。将来的には、バイオプラスチックの原料とする計画だ。
農業への参入に積極的なのが小売業や外食産業だ。セブン&アイ・ホールディングスは08年8月に千葉県で農業生産法人を設立。傘下のイトーヨーカ堂は食品リサイクルによる環境循環型農業を行う農事会社、セブンファームを持っている。スーパーで廃棄される食品の残りかすを回収して堆肥化。契約農場でこれを活用し、ニンジンやタマネギ、サツマイモなどの露地野菜を栽培している。収穫された農産物はイトーヨーカ堂の店舗で販売されている。現在セブンファームは6カ所ある。