●人気店や本格店も
例えば、三重県津市の海鮮居酒屋「巣海家」は、12年の「鳥人間コンテスト」(読売テレビ主催)に出場した三重大学のサークルメンバーを中心に、13年6月にオープン。きっかけは人力飛行機の製作資金捻出のためだったそうだが、学生経営ながら新鮮な魚を毎日市場から仕入れ、今年の4月には17kgもあるマグロの解体ショーといったイベントを催したりもしている。読売や中日といった大手新聞社などのメディアも同店には注目し、他府県にもその名を轟かせつつある。
12年2月には埼玉県さいたま市の埼玉大学の学生が中心となり立ち上げた「学生居酒屋 酒笑」(10月には草加市に獨協大学店もオープン)や、同年8月に東京新宿区歌舞伎町に複数の大学生が集まり立ち上げたバー「Bar code」などもあり、こちらも連日賑わいを見せている模様。
加えて、大学側から経営の提案をするケースも見逃せない。千葉商科大学では学生ベンチャーを学内公募し、学生5グループからの事業計画書を選考した結果、商経学部商学科学生の洋食店案を採用。キャンパス食堂として洋食店「BENI」を13年4月に同学内にオープン。もちろん一般客にも開放し、地域貢献をしながら学生店長は日々の店舗経営に学業にと充実した毎日を送っているそうだ。
●学生にとって大きなメリット
学生経営の店舗急増の背景には、一体何があるのだろうか。ここまで例に挙げた店舗はここ1、2年でオープンしたお店だが、10年9月に東京都新橋で創業し、現在まで5代にわたりメンバーが世代交代してきた学生居酒屋「あるばか」の現役女子大生店長、木村幸子さんは次のように解説する。
「学生側からすると店舗経営はメリットばかりです。私たちは経営、接客の両面から社会勉強にもなりますし、近頃企業が新卒採用面で重要視しているコミュニケーション力も養えますからね。むしろお客様にデメリットのほうが多いかもしれません(笑)。新橋には料理、サービス、価格などの質の高いお店がたくさんありますので、来店してくださるお客様には本当に感謝しています。ただ、『若いパワーと、いい意味で軽くて柔軟な発想という部分がこの店の魅力だよ』と、ある常連の方におっしゃっていただいたことがあるんです。手前味噌ですが、お客様にはそういった部分をメリットと感じていただけているのではないでしょうか。もちろん、まだまだ他店やお客様から学ぶ部分は数多くありますので、一生懸命、お店の質を向上していけるように頑張っていきたいと思います」
学生からすると、ありあまるエネルギーを社会人一歩手前という立場で思う存分発揮でき、また自由な発想を社会の枠にとらわれることなく世間に問えるため、飲食店経営というのは魅力的なのだろう。店舗にもよるが、共同経営や世代交代というシステムを採用しているお店も多く、責任を分散し一人ひとりの負担を軽減する形態が、良い意味で経営へのハードルを下げているのかもしれない。
(文=東賢志/A4studio)