JVとアルジェリア側が対立する中、アルジェリア政府は今年6月、現地紙に工事の完成が遅れていることなどを理由に契約解除を示唆する意見広告を掲載した。JV側は一方的に契約が解除されれば代金回収は難しくなると判断し、国際仲裁裁判所に仲裁を申し立てた。
同裁判所の判決に相当する仲裁判断には法的な拘束力があるが、仲裁手続きに入るには両者の合意が必要。アルジェリア政府が仲裁に応じない可能性があるとも報じられており、紛争の長期化は避けられないだろう。
同工事は鹿島、大成建設、西松建設、ハザマ(現・安藤ハザマ)と伊藤忠商事の5社でつくるJVが受注した「アルジェリア東西高速道路建設工事(東地区)」。アルジェリア北部を東西に走る1200kmの高速道路のうち、チュニジア国境までの東側400kmを建設するというもの。受注額5400億円は、日本のゼネコンによる海外工事では最大級の案件として注目された。
工事は2006年10月に着工。完成は当初、10年2月のはずだったが、工事が遅れ、完成したのは7割程度。トンネルだけでも14本あるのに地盤がもろく崩壊しやすい山を掘削する工事には、日本のゼネコンが得意とするハイテク施工が役に立たなかった。さらにテロ対策の火薬持ち出し制限などから工事が滞った。
加えて、アルジェリア側からインターチェンジの新設など膨大な追加工事を求められ、施工しても代金は支払われなかった。10年には工期を2年延ばし、政府側と未収金の回収に向け交渉を続けてきたが、事態は進展しなかった。現在、工事は事実上ストップしており、進捗は8割程度という。
この間、工事代の未払いが累積。JV各社は11年3月期に800億円の工事損失引当金を計上した。それでも済まず、未払い代金は1000億円を上回る。JV各社は損失に備えて引当金を積んでいるとみられる。国際仲裁で有利な結果を引き出して、代金の回収額を増やすことで業績への悪影響を抑えることを狙う。
ドバイ案件でゼネコン各社が巨額損失
国内の建設需要の低迷を受け、大手ゼネコンは海外に活路を求めた。国土交通省の統計によると、大手建設50社の海外での受注額が大幅に増えたのは05年からだ。同年の海外工事は前年比37.9%増の8149億円。06年は同32.1%増の1兆765億円と大きく伸びた。この時期の大型案件がドバイ・メトロプロジェクトとアルジェリア東西高速道路だった。
ドバイ・メトロは、アラブ首長国連邦ドバイに建設された世界最長の無人運転の鉄道システム。05年、大林組、鹿島などのJVが正式に契約。受注規模は2300億円に上ったが、追加工事の費用負担をめぐり、発注者のドバイ道路交通局との交渉が難航した。そのため鹿島はドバイ・メトロの損失を計上し、09年3月期の最終損益は62億円の赤字に転落。JVの持ち分が最も大きかった大林組は10年3月期に535億円の最終赤字となった。ドバイ・メトロの工事費が想定の3倍に膨らんだ結果だ。
08年秋のリーマン・ショックがもたらした金融危機で、ドバイ・バブルがはじけた。資金不足から工事がストップし、大成建設が建設していた超高層の3連タワー「ゲートウェイタワー」も14階部分までで建設を凍結した。ドバイ工事の赤字が原因で、大成は09年3月期に7期ぶりに244億円の最終赤字となった。海外工事に活路を求めた葉山莞児社長は経営責任を取り引責辞任。銀行主導による清水建設との救済合併が取り沙汰される騒ぎとなった。
こうした動きを受け、大手50社の海外工事の受注は激減。一時、4000億円台に落ち込んでいたが、13年は7126億円(前年比44.5%増)と2年ぶりに増加した。大成の14年3月期の受注実績1兆3001億円のうち、海外はわずか673億円。葉山社長時代に海外比率が2割を占めていたころの勢いはない。ドバイとアルジェリアの痛手が、それほど大きかったということだ。
ゼネコンのガラケー化
ゼネコンの海外進出が失敗するケースが多い要因として、「ゼネコンのガラケー化」が指摘されている。日本の携帯電話メーカーは国内で過剰とも思える機能向上などの競争を続けるうちに、世界の市場は欧米や韓国企業に奪われた。いわゆる携帯電話のガラパゴス化といわれるものだが、それと同じことが、ゼネコンでも起きているというのだ。
建設業界は企業数が多すぎ、国内偏重の構造になっている。国内では日本のゼネコンが圧倒的に強く、外国のゼネコンは参入できない。半面、日本のゼネコンが外国に出ると、ほとんど利益が上がらないのが現状だ。大手50社の13年の建設受注総額13兆2076億円のうち、海外工事は7126億円で全体の5.4%にすぎない。ゼネコンのガラケー化を解消し、建設業の海外進出が進むまでには、まだ時間がかかりそうだ。
(文=編集部)