――実は本書はタイトルが与えるイメージとは異なり、暴露本ではなく検証本に類すると思いますが、本書執筆の背景にある常見さんの問題意識とはなんでしょうか?
常見 一番書きたかったのは、第一章の「リクルートの『焦り』 話題のCMから読み解く」です。「すべての人生が、すばらしい」というCMは多様性を表現しているようで、同社が発信する限り、クライアント企業が提供する商品・サービスの中での多様性にすぎません。「子供に夢を託すな」というCMは転職の勧めであることが明白です。どちらも同社の手のひらで踊らされることが見え見えのCMです。さらにいえば、消費者は同社の情報サービスがなくてもあらゆる情報を入手できる時代になりましたが、その事実をもっと同社は深刻に捉えるべきではないかと。手のひらが見え見えで、踊る消費者も減っているのではないでしょうか。時代錯誤そのものです。
――CMのメッセージで人生論を投げかけられるのは、そもそも余計なお世話ではないでしょうか?
常見 そう、余計なお世話です。このCMのメッセージについて「気持ち悪い」という感想を述べた人がいます。同社に関しても、中途退職を「卒業」と呼ぶという世界観が、世間では気持ち悪いと思われているのではないでしょうか。私は在籍中から今に至るまで、退職を「卒業」と言うことは気持ち悪いと思っています。同社では30代で退職する社員が多いのですが、この年齢ならやり残したことは相当多いはずで、実態は「中退」です。素直に「退職」と呼べばよいのです。
●社格は上がるのか?
――10月16日の上場によって多額のキャピタル・ゲインを得て、高額な退職金と合わせて、大金を手にした多くの中堅社員が退職するのではという見方もあります。
常見 退職する社員は、結構な人数ではないでしょうか。実際、この半年くらいに「リクルート辞めました」という連絡を何度も現役社員からもらいました。リクルートグループの全従業員数は約3万人です。上場で得られるキャピタルゲインは相当なものだと推定されます。株の保有数は、どの時期に入社して、どれだけ買っていたかにもよりますが。
ただ、もし上場を契機としてエース社員、ベテラン社員の退職者が多数出たとしても、実はリクルートは困らない会社になっていると私は見ています。かつてはカリスマ営業マンなど個人の力で業績を伸ばす会社でしたが、今は営業部門をとってみても、世間のイメージと違って非常にシステマティックに運営されているのです。淡々と仕事をして儲かる会社に変わったので、エース社員、ベテラン社員がどんどん退職しても下の世代がシステムに乗って、その仕事を引き継ぐだけです。