実質賃金、20年前と変わらず 一億総“お金使わない”現象を生んだ日本の特殊性と原因
そのために重要な要素となる公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は昨年、運用配分を国債から株式にシフトしていくと発表しました。現在の株価水準で大量に日本株式を買い将来株価が下落すると、年金制度への信頼下落のみならず運用資産喪失という実害が発生し、国民の生活水準の切り下げにもつながりかねません。もちろん株価が上昇すれば、その逆の結果となります。ただ、投資家に占める外国人比率が大きい中、株価は日本以外の要因に反応することが多々あります。海外の大規模な自然災害が日経平均株価を押し下げることも想定されます。そうしたコントロールできない要素が存在していることもあり、多くの国民は株価が上がり続けるという想像を描けないのではないでしょうか。
株価を押し上げる政策が重視され、しばしば「日経平均株価、●年ぶりの●円達成」などと報じられますが、本質的な年金制度の仕組みについては何も変わらず、じわじわと若年層・現役世代の負担増と将来的な受給減少が進み、中途半端な改革にとどまっています。
本来であれば「年金を集める側」と同時に「出て行く側」も併せて修正されていくべきであり、人口構成上「出て行く側」のインパクトは高まり続けていきます。しかし、「出て行く側」に痛みが伴う変更は、選挙で高齢者の票が離れてしまう恐れがあるため難しい。結局、若年層・現役世代は地道に情報を収集し選挙で投票したり、貯蓄の方法や収入を上げる方法などを研究しつつ、(語学やカルチャーにアレルギーがなければ)海外に移住することも含めて自己防衛していくしかありません。
そうして地合いが変化して、年金制度全体の抜本的な改革が実行に移った時に初めて、国民の最大公約数的な生活安定基盤が実現されていくのではないでしょうか。その兆候がこの10~20年の間まったく見えないことが、景気回復感が湧いてこない底流にあります。
(文=中沢光昭/経営コンサルタント)