ビジネスジャーナル > 企業ニュース > 特許権の帰属を企業へ法改正
NEW
鷲尾香一「“鷲”の目で斬る」

特許法大転換 特許権帰属を発明者から企業へ法改正検討 個人が相当の対価を得られない懸念

文=鷲尾香一/ジャーナリスト
【この記事のキーワード】, , ,
特許法大転換 特許権帰属を発明者から企業へ法改正検討 個人が相当の対価を得られない懸念の画像1特許庁(「Wikipedia」より/っ)

 特許権は誰のものなのか――。発明した研究者のもの(発明者主義)なのか、それとも研究者が所属している企業等のもの(使用者主義)なのか。政府は現在、企業の研究者や従業員が職務上行った発明(職務発明)の特許を受ける権利をめぐり、特許法の改正を検討している。
 
 青色発光ダイオードの発明でノーベル物理学賞を受賞した中村修二・米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授が、日亜化学工業に勤務していた時に発明した青色発光ダイオードの特許をめぐり同社と争った裁判は、当時大きな話題を呼んだ。同裁判では当初、中村氏に対して特許権の対価の一部として200億円を支払うよう同社へ命じられた。しかし、同社側は認定額が高額すぎるとして控訴し、同社が中村氏に対して8億4391万円を支払うことで和解した。

 日本の特許法は職務発明について、従業員に特許を受ける権利があるという発明者主義を採用している。しかし、安倍晋三政権は2013年6月に閣議決定した成長戦略「日本再興戦略」において「企業のグローバル活動を阻害しないための職務発明制度の見直し」を掲げ、特許制度の見直し作業に入った。この結果、特許庁では特許を受ける権利を原則として企業に帰属させる使用者主義へ舵を切る方針を固め、同法の改正について検討を進めている。

 そもそも、日本の職務発明に関する規定は1909(明治42)年、特許を受ける権利は企業等に帰属するという使用者主義に基づき特許法に設けられた。しかし、21(大正10)年の特許法の改正で、権利を従業員等に帰属する(発明者主義)と改正され、以降は現行法まで発明者主義が継続されている。

 ただし、41年までは、従業員が特許を受ける権利を使用者に承継させた場合は、「相当の対価を受ける権利を有する」となっていた。このため、日亜化学工業をはじめ、オリンパス、日立製作所など多くの企業で、従業員(発明者)が企業(使用者)に職務発明に相当の対価を求める訴訟が起こった。

 そこで、41年に特許法の改正が行われ、「契約等当事者間(発明者と使用者)の自主的な取り決めによって、相当の対価を定めることを原則とする」との規定が追加された。つまり、相当の対価をめぐる従業員と企業の訴訟を回避し、両者で相当の対価について取り決めを行うように促したのだ。

●技術者の海外流出招く懸念も

 だが、それ以降も次のような批判が企業側から寄せられ、今回、現行法の改正に向かって動き出したのである。

(1)企業がどこまで努力をすれば訴訟リスクを回避できるのか不明確、依然として企業にとって予見可能性が低い
(2)個々の発明に対する「相当の対価」を発明者個人に金銭で支払うことを一律に要求し、多様な評価方法、例えば昇進、研究の自由度、研究費の増額、ボーナスなどを認めていない
(3)発明者のみに権利を与えることが、集団での研究開発や研究開発への投資、企業の国際的競争力等に悪影響を及ぼす

 現在検討されている改正案では、特許を受ける権利を使用者に帰属させるとともに、従業員に保障されていた権利承継の相当の対価は、発明成果に対する報奨という位置付けに変更されている。さらに、報奨は金銭以外でも可能であり、企業が自由にインセンティブを設定できる。

鷲尾香一/ジャーナリスト

鷲尾香一/ジャーナリスト

本名は鈴木透。元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。

特許法大転換 特許権帰属を発明者から企業へ法改正検討 個人が相当の対価を得られない懸念のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!