「外国人はマルキーニョスパラナ(37歳)とジウシーニョ(30歳)が契約満了で退団。クリスティアーノ(28歳)が柏レイソルに期限付き移籍し、ブラジルのECヴィトーリアからエンリケ(22歳)、SEパルメイラスからジバウ(20歳)を、J2の徳島ヴォルティスからアドリアーノ(33歳)を獲得しました。若い2人は伸び代も期待できます。活躍次第では、かつて獲得したバレーやダヴィのように強豪チームに引き抜かれるかもしれません。3人入れ替えたのはリスクですが、樋口監督と相談の上、J1を知るアドリアーノを獲得したのです」
また、守備の主力だった佐々木翔選手もサンフレッチェ広島に移籍した。
「戦力的には痛いが、契約期間が残っていたので移籍金(推定4500万円)も入ってきます。ビジネス論理だけで動きたくはないが、ロマンを掲げながらソロバンも弾く現実的な選択をしました」(同)
地域との共生を深掘り
VF甲府は「『一体』-プロヴィンチアの挑戦-」を今季のチームスローガンに掲げる。以前から掲げ続ける「プロヴィンチア」は、一般的には耳慣れない言葉だがイタリア語で大都会や大資本のクラブに対抗する「地方クラブ」のこと。15年シーズンで強調する「一体」には、チームの一体感やサポーターが作りだす本拠地スタジアムの一体感を込めた。
昨季の1試合平均観客入場者数は1万2171人。国立競技場開催分も含むが、本拠地の「小瀬」の収容人数は1万7000人(試合開催時)なので、地元サポーターの支持は高いといえる。「祖父母からお孫さんまで、三世代観戦が他のスタジアムに比べて多い」(佐久間氏)という。
ただし、前述した観客数の微減は「高齢世代が足を運ぶ総数が減ってきたこと」だという。魅力的なサッカーで、どう幅広い世代を集客するかが今季の課題でもある。
監督としてもGMとしても「理想」を掲げながら、「現実」を見据えて舵取りをするのが佐久間氏の手法だ。大宮退団を表明した08年秋、同氏にはJ1やJ2のチームがGMとして、そしてJリーグ事務局からは育成世代の責任者として多数のオファーがあった。その中でVF甲府を選び挑戦を続けてきたのは、本人のこだわりからだ。
「日本版のアスレティック・ビルバオを目指しているのです」と佐久間氏は説明する。アスレティック・ビルバオとは、リーガ・エスパニョーラ(スペイン1部リーグ)の古豪で、選手は本拠地のあるバスク出身者で構成されている。VF甲府はスポーツ強豪校である山梨学院大学と提携、10年に全国高校サッカー選手権優勝を果たした同大学付属高校とも協力関係を築き、地元有望選手の発掘や育成にも注力する。サッカーを軸に地域を再活性させれば、「挑戦」の先に掲げる究極の目標「プロヴィンチアの象徴」が見えてくる。
経営資源である「ヒト、モノ、カネ」が限られた中で工夫して結果を出す姿勢は、多くの管理職の仕事に共通するだろう。ただし、現役時代の佐久間氏はスター選手ではなかった。次回は、本人の経歴も紹介しながらGMに求められる資質を分析していきたい。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)