株式投資の新たな基準として「健康経営」「健康投資」が注目されている。
3月25日、経済産業省が東京証券取引所と共同で選定した「健康経営銘柄」22社を発表した。これは、東証上場企業の中から従業員などの健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践している企業を業種ごとに選定したものだ。
経産省は「これらの企業は、従業員の活力や生産性の向上など、組織の活性化をもたらすことで、中長期的な業種・企業価値の向上を実現し、投資家からの理解と評価を得ることで、株価の向上にもつながることが期待される」としている。
しかし、実はこれは厚生労働省が進めている「健康寿命をのばそう!アワード」という運動のまねだ。厚労省は同運動で、従業員や職員、住民に対して生活習慣病予防の啓発、健康増進のために優れた取り組みをしている企業などを表彰している。
また、日本政策投資銀行では、従来から「DBJ健康経営格付」を設けて、格付けの評価に応じて融資条件を設定しており、経産省と東証の「健康経営銘柄」の基準検討委員会にも同行が加わっている。つまり、厚労省と政投銀の考え方をまねて、企業の「健康経営」と「健康投資」という形に置き換えたのが、経産省と東証の「健康経営銘柄」というわけだ。
日本総合研究所では、厚労省の「健康寿命をのばそう!アワード」の受賞企業と、政投銀の「健康経営格付」の融資先企業のうち、東証一部上場企業の株価指数の推移をTOPIX(東証株価指数)と比較している。そして、約5年間で前者のほうがTOPIXを上回っているという分析結果が出ている。
もちろん、株式投資の本家本元であるアメリカでも同様のアプローチがされている。産業医などの協会から「最も健康な企業」として表彰された企業群の株価指数を、アメリカの代表的な株価指数であるS&P 500と比較した場合、過去15年間において前者がS&P 500を上回るという結果が出ている。つまり、経産省と東証の「健康経営銘柄」は、株式投資基準としては、アメリカのまねでもあるわけだ。
しかし、企業の「健康経営」に対する深刻さは、日本のほうがアメリカよりもはるかに上だ。少子高齢化が進み生産年齢が急上昇している日本では、企業が従業員を人的資本と捉え最大限に活用できるように、環境面、健康面の向上を図っていくことが必要である。
加えて、生産年齢人口そのものが減少している日本では、従業員が不足する事態が刻々と近づいている。現在の従業員の健康のケアを進めることで、従業員の活力と満足度を高め、品質を向上させ、それが顧客の満足度や信頼度の向上にもつながる。その点で「健康経営」は、株式投資基準としてだけではなく、これからの日本企業が進めていかなければならない企業努力でもあるだろう。
一方で、株式投資の判断基準にする以上、「健康経営銘柄」に投資することで儲からなければならないわけだが、この点については前述したように実証済みなので、今後「健康経営」は投資基準としての認知度が高まり、一大ブームになる可能性もある。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)
【経済産業省と東京証券取引所が選定した「健康経営銘柄」22社】
・アサヒグループホールディングス
・東レ
・花王
・ロート製薬
・東燃ゼネラル石油
・ブリヂストン
・TOTO
・神戸製鋼所
・コニカミノルタ
・川崎重工業
・テルモ
・アシックス
・広島ガス
・東京急行電鉄
・日本航空
・SCSK
・丸紅
・ローソン
・三菱UFJフィナンシャル・グループ
・大和証券グループ本社
・第一生命保険
・リンクアンドモチベーション