「アメリカのガンファイヤー試験も実施しており、ライフルで撃ち抜かれても爆発しないことが証明されています」(同)
●「少しでも早く車を出すこと」の意義
FCVは、本田技研工業(ホンダ)や日産自動車のほか、独フォルクスワーゲンや韓国・現代自動車なども開発を進めている。なぜトヨタは、世界に先駆けてFCVを市販できたのか。
「一番乗りというよりは、出すことのほうが大事でしたね。一台も車が出ていないのにインフラをつくってくださいといっても無理な話ですので、少しでも早く車を出すことが、インフラの整備にもつながると思いました」(同)
トヨタには、97年の量産型ハイブリッドカー「プリウス」以来、磨き続けてきたハイブリッド技術がある。その技術はかなりの部分、FCVに適用することが可能だった。
「スタックとタンクは、FCV専用の技術ですが、二次電池、モーター、パワーコントロールユニットはハイブリッドカー技術そのものです。大容量のFC昇圧コンバーターを新開発し、ハイブリッドで培った昇圧技術を採用することで、FCスタックのセル数を減少させ、システムの小型化、軽量化を図ると同時に、量産電圧をハイブリッドと同じ650Vにすることで現行のハイブリッドユニットを流用しているんですね。信頼性を含めて、既存の量産ハイブリッド技術を活用できたことは大きいと思います」
コスト面のブレークスルーは、量産化である。
「極端な話が、1台、2台つくるのであれば、どこのメーカーでも可能です。しかし、台数が少なければ高い車になってしまいます。その意味で、量産できるようにするということが、大きな課題でしたね」(同)
このほか、日本にFCVの開発、生産の条件がそろっていたことも、世界初の量産化を達成できた理由だ。例えば、基幹部品を供給する部品メーカーや部材メーカーの存在である。
「日本は、精密加工技術や材料技術が得意です。カーボンや特殊材料など、日本が得意とする技術力が生かされています。材料技術、制御技術、すり合わせ技術の3要素を合わせて、初めて燃料電池車は成立するのだと思います」(同)
●結集されたグループの力
グループの部品メーカーの下支えも大きかった。例えば、燃料電池スタック向けにチタン製セパレーターを供給しているのは、トヨタ紡織だ。
「燃料電池スタックのセルの溝はプレスでつくります。チタンを一枚一枚プレスして合わせるわけです。いちいち削り出していたら量産はできません」(同)