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片山修「ずたぶくろ経営論」

なぜトヨタは世界初FCV「ミライ」を市販できたのか 不可能を可能にした20年の格闘

文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

●新しい水素社会の実現のために

 日本のエネルギー供給は、海外の資源に大きく依存しており、根本的な脆弱性を抱えている。東日本大震災後の原子力発電所の運転停止が長引く中で、化石燃料への依存は増加の一途をたどり、化石燃料の輸入増大によりエネルギーコストも増えており、二酸化炭素排出量の増加の面からも問題視されている。

 水素社会が実現できれば、大幅な省エネルギー、環境負荷低減はもとより、エネルギーセキュリティーにも大きく貢献することができる。

ミライは、資源のない日本が、新しい水素社会の実現のために、ささやかながらも第一歩を踏み出す車です」

 トヨタ社長の豊田章男氏は、2月24日、愛知県豊田市の元町工場で開かれたミライのラインオフ式典で、このように語った。

 ミライの生産台数は、現在のところ一日当たり3台で、15人の熟練社員が全工程を手作業で行っている。組み立てラインには、ベルトコンベアーなどの設備はなく、搬送は手押しだ。

 トヨタは昨年12月15日の販売開始から立ち上がりの約1年間で国内販売400台、グローバル販売700台の目標を掲げる。当初、15年末までの立ち上がり約1年間で700台としていた生産台数を、16年2000台、17年3000台と増産することを決定した。

 同式典後の記者会見で豊田氏は、次のように語った。

「水素社会の実現によって、世の中は変わるのではないかと思います。例えば、災害の多い日本で、ミライはいざという時の給電施設になります。今はない世界がわき起こってくるのが、水素社会だと思います。その中に、トヨタが車というかたちで参加できたことは、大変喜ばしいと思いますし、第一歩を記したということで、水素社会をリードする責務を感じています」

 東京都は、20年に開催される五輪で会場間輸送や選手村の運営に水素を活用して、世界にアピールすることを計画している。日本には、水素活用の先頭を走り、次の100年に引き継げるエネルギー社会を築くことが期待されているといっていいだろう。
(文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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