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片山修「ずたぶくろ経営論」

なぜトヨタは世界初FCV「ミライ」を市販できたのか 不可能を可能にした20年の格闘

文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

 トヨタ紡織は、自動車用シートのリクライニング機構に用いる高精度、高速プレス加工技術を持つ。その技術を応用して、燃料電池内の水素の微細流路形状の加工を実現した。

 先に触れた3Dファインメッシュ流路の開発は、トヨタ車体の存在が大きい。

「それぞれの会社が持つ加工技術をより工夫して、挑戦してもらった結果です」(同)
 
●進む水素供給のインフラ整備

 FCVの普及には、水素供給のインフラ整備が不可欠である。岩谷産業は14年7月、兵庫県尼崎市に国内初となる商用水素ステーションを整備した。尼崎に続いて、14年10月には北九州市の小倉、15年3月には東京・港区芝公園、15年末には関西国際空港に水素ステーションを開設する計画だ。

 現在、岩谷産業は大阪、千葉、山口の3カ所に液化水素製造拠点を持つ。水素ステーションでは、独リンデ社の小型水素圧縮機を搭載した充填パッケージシステムが採用され、高効率な水素ステーションを目指している。液化水素を製造拠点から運んでくるオフサイト方式を採用して、充填時に気体に戻したあと、約70 MPaの高圧水素ガスを3分以内で満タンに充填する。
 
 また、JX日鉱日石エネルギーは14年12月、神奈川県海老名市に1号店を開業した。そして豊田通商と岩谷産業、大陽日酸は、移動式水素ステーションを運営する新会社を設立した。

 日本国内には現在、7カ所しか水素ステーションがない。FCVが広く社会に受け入れられるかどうかは、水素の供給体制の整備がカギを握る。整備が進まない理由については、大きく2つある。一つは、ガソリンスタンドの約5倍の5億円といわれる水素ステーションの建設コストと、運営にかかるコストだ。

 政府は、15年度末までに東京、名古屋、大阪、福岡の4大都市圏を中心に、100カ所の水素ステーションを整備する計画を掲げている。

 もう一つは、水素ステーションはガソリンスタンドに比べて広い敷地が必要など、立地の規制が厳しいことである。水素ステーションを増やすためには、高圧ガス保安法、消防法、建築基準法など規制の見直しが必要だ。現在、ガソリンスタンドとの併設などの規制緩和が進められており、水素ステーションの安全審査が緩和される。

 従来は、ステーションの設置を申請すると、バルブの強度などの審査に約1カ月かかるほか、必要書類をそろえる手続きなどがあったが、経済産業省は国が認めたメーカーについて、都道府県による審査期間を半月で済むようにするほか、工事費が1億円程度で済む小型の水素スタンドの設置に向けて、安全基準の策定にも着手する方針だ。

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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