「国内ではディーゼル仕様車のみを販売する。国内のディーゼル車市場は、新車の登録台数が全体の2%を切るレベルだが、『CX-3』でディーゼル車の普及にチャレンジしたい」
同社の小飼雅道社長がそう言うと、会場の一隅でどよめきが起こった。2月27日、都内で行われた同社の小型SUV(スポーツ用多目的車)「CX-3」発表会でのことだ。
小型SUV市場は、2020年に14年比で約2倍に拡大すると予測されており、競合車がひしめいている。そんな市場で、「ディーゼル車一本で勝負する」という宣言が飛び出したのだから、関係者がどよめいたのも当然だ。
マツダは1970年代、業界の流れに逆らってロータリーエンジンの事業化にのめり込み、見事に失敗した前例がある。ある業界関係者は「ディーゼル車一本で勝負をするのは、マツダとしても初めてです。だから、ロータリーエンジン失敗の悪夢が頭をよぎり、思わず『それは無謀だ』と声を出しそうになりました」と語る。
「CX-3」は、排出ガス規制をクリアした、直列4気筒1.5リッターの最新型ディーゼルエンジン「SKYACTIV-D 1.5」を搭載した新型車だ。独自の次世代自動車技術群「SKYACTIV TECHNOLOGY」と、新デザイン「魂動(こどう)」を本格的に採用した新世代モデルの第五弾となる。
「SKYACTIV-D 1.5」には、世界で初めてディーゼルエンジンのノック音を抑制する「ナチュラル・サウンド・スムーザー」が搭載されており、走行時の静粛性が高まるとともに、ディーゼルエンジン特有の「ガラガラ音」も解消される。価格は237万6000円から302万4000円までで、1.5リッターとしては強気の設定だ。
地道な努力で取り戻したブランドイメージ
「『CX-3』投入で、ディーゼル車市場を拡大させる」と語るマツダの強気には理由がある。今、国内で販売されているディーゼル車は約8万台だが、そのうち60%以上がマツダの車だからだ。
直近の1~2月を見ると、他社の多くが前年同月比で販売台数を落とす中、同社は上回っている。15年3月期の営業利益も2100億円(前期比15.3%増)が確定的で、2期連続の過去最高益更新を達成する見通しだ。そこには、12年3月期まで4期連続の最終赤字に苦しんでいた面影はない。
マツダが復活した背景には、ブランド力を回復させるための地道な活動と、それを支える全社的業務改革活動「モノ造り革新」があった。そもそも、「マツダがリーマン・ショック後の09年3月期から4期連続の赤字に苦しんだのは、ブランド力の毀損が主因でした」(業界関係者)というのが定説だ。
マツダに対するブランドイメージは、中高年層と30代以下の若年層の間にギャップがある。自動車雑誌の記者は「中高年層の多くは『中古車の買い取り価格は二束三文だし、販売店のサービスもよくない。マツダは安いだけが取りえだ』と悪印象を持っています。しかし、若年層は『走りに特徴があるし、デザインもカッコいい』と好感を持つユーザーが多く、ここまで世代によって印象が違うブランドは珍しいです」と苦笑する。
もともと、マツダは技術力やデザインには定評があったものの、販売力が弱かった。そのため安売りに走り、レンタカー用に卸したりすることで、販売量の確保を目指したが、中古車が値崩れを起こしてブランドイメージが低下してしまった。イメージが悪くて売れないので、また安売りに走る、の繰り返しで財務体質が悪化し、経営危機に陥った。