「中高年層は、安売りをしていた時代のユーザーが多いです。そのため、『マツダの車を買ったら、中古の引き取り時に買い叩かれて後悔した。二度とマツダには乗らない』という人が多いのです」(前出の雑誌記者)
同社が安売り戦略から脱出できたのは、02年に打ち出した「Zoom-Zoom」というキャッチコピーがきっかけだった。同コピーには、「マツダの車は、移動手段としてだけではなく、乗るとワクワクする」という思いが込められており、当時は地に堕ちていたブランド力の回復が託された。
これ以降、同社は原点である「マツダらしい走り」を追求し、デザインに磨きをかけていった。そして生まれたのが、10年9月に発表した「強い生命感と速さを感じる動きの表現」を目指した魂動だ。さらに、魂動を技術的に支えたのが、同年翌月発表のSKYACTIV TECHNOLOGYである。同社は、デザインと技術の両輪でブランド力回復に取り組んだのだ。
その成果は「日経ビジネス」(日経BP社)が2月に実施した、ブランドイメージのアンケート調査からもうかがえる。「革新的と感じる自動車メーカーは」との質問に、1位のトヨタ(59.1%)に続いて2位にマツダ(42.8%)がランクインしたのだ。革新性では定評のある富士重工業と本田技研工業を10ポイント以上引き離していた。
それ以上に興味深いのが、「イメージがどう変わったのか」に対する回答だ。63.8%が「革新的なイメージが強くなった」と答えており、ブランドイメージが突出して高いトヨタの44.2%を20ポイント近くも上回っている。同誌は、「マツダのブランドイメージは最近特に強まっており、今や上位メーカーを脅かす存在になりつつある」と評価している。
周囲が危惧する「のるかそるか」のDNA
「二度と乗りたくない車」から「カッコいい車」にブランド力を好転させたマツダは、このまま快走できるのだろうか。同社の主戦場は、競争が最も激しい中小型の乗用車市場だ。業界内には、「ブランド力だけで今の好業績を持続するのは、容易ではない。上位メーカーが体力勝負に出れば、息切れする」との声も多い。
これについて、前出の雑誌記者は「SKYACTIV TECHNOLOGYをどのように進化させるかで、状況が変わってくる」と語る。
マツダがSKYACTIV TECHNOLOGYの進化形として目指しているのは、「予混合圧縮着火」という究極の低燃費技術だ。これは、あらかじめ空気とガソリンを混ぜたもの(予混合)をピストンの圧縮によって着火させる方式で、「開発に成功すればノーベル賞もの」といわれるほど、難度の高い技術である。当然、上位メーカーも研究を進めているが、「マツダほど真剣ではない」といわれている。
この技術が完成すれば、たとえ販売力で上位メーカーに劣ったとしても、十分にカバーすることができるだろう。「業界の一匹狼」と呼ばれ、リスクに敢然と立ち向かうDNAを持つ、マツダらしい戦略といえる。
しかし、成長戦略をエンジン開発だけに依存するのは明らかにリスクが高い。前出の雑誌記者は「ロータリーエンジンの二の舞にならないために、すべて自社開発にこだわらず、他社との提携を含めた、あらゆる可能性を追求すべきです」と語る。
新世代モデルの成功を踏まえた次の成長戦略に、過去の反省が生かされているかどうか。それが、同社の完全復活を左右するといえそうだ。
(文=福井晋/フリーライター)