実施案づくりは、連立与党の税制協議会が逐一、財務省の知恵を借りて進めてきた。この間、首相官邸は与党の顔を立てるかたちで沈黙を守ってきた。税制協議会の今年5月の資料によると、当時は軽減税率の対象として「精米」「生鮮食品」「酒類を除く飲食料品」の3案を検討していた。見た目で与党のセンセイたちを喜ばせる意図でもあったのか、意外な感があるのは、3案のうち対象品目が最も多い「酒類を除く飲食料品」を減税嫌いの財務省が自ら実施案として推奨したことだ。
ただ、財務省は政府の金庫番らしく歯止めをかけることも忘れていない。世帯合算は認めるものの、1人当たり上限4000円程度という還付額の上限設定置や、還付対象に所得制限を設ける腹案も付けている。
「酒類を除く飲食料品」の購入代金の2%をすべて還付すると、1兆2600億円の財源が必要になる。消費税率を10%へ2%引き上げると、3~4兆円の税収増が見込めるはずなので、増収分の3~4割程度を還付する計算になる。ところが、財務省は還付額の上限と所得制限を設ける腹案を付けて、この何分の一かの還付で済ます余地を残しているのだ。なんとも貧乏くさい軽減税率導入案である。
誰のための複雑な仕組みなのか
加えて、あまりにも唐突だったのが、冒頭で記したように還付を受けるために円滑なスタートすら危ぶまれているマイナンバー制度の個人番号カード取得、携帯、掲示などを不可欠とする仕組みを導入するとしていることだ。日本年金機構の個人情報流出事件の前例を持ち出すまでもなく、われわれ国民にすれば個人番号カードは使う場が増えれば増えるほど、個人情報の漏えいのリスクは高くなる。積極的な利用には二の足を踏まざるを得ない。
さらに、厄介なのは、小売店の側がカードを読み取り、納税者にポイントを付与するための専用端末を整備する必要があることだ。十分な準備期間とコスト負担が必要であり、17年4月の消費増税のタイミングに間に合う保証はない。
では、こんな複雑な仕組みづくりがいったい、誰のために行われているのだろうか。疑わざるを得ないのは、これまでもさまざまな行政システムの構築のたびに暗躍が囁かれてきたITゼネコンや機器メーカーの動向だ。必要な機器やシステムの整備のために、数百億円規模の補助金を検討しているとの報道もあるが、潤うのはこうした企業と見て間違いない。