2015年の日本経済は一進一退だった。年の前半は円安が企業業績や株高を支え、消費も緩やかに回復した。しかし、中国経済の減速が鮮明化するに伴い、経済活動が低下し夏場以降の景気は徐々に不安定になった。それは設備投資の減少にもつながった。一方、年末にかけて製造業の出荷は徐々に回復し、在庫調整は一巡しつつある。それは目先の景気にプラスだ。今年夏の参議院選を控えて、安倍政権は早期の補正予算成立を目指している。これも当面の景気を支える。
ただ、楽観は禁物だ。海外要因、特に中国や米国の景気動向には注意が必要だ。これまで世界の景気回復は米国に支えられてきた。その米国の生産活動にはやや陰りが見え始めている。米国の景気などが想定以上に弱含めば、金融市場で急速にリスクオフが進み、円高株安が景況感を悪化させるリスクには注意が必要だ。
無視できない米国の景気リスク
2009年夏場以降、米国の景気は緩やかに回復してきた。すでに米国経済の回復は7年目に突入している。米国経済とて永久に上昇過程をたどることはできない。11月の米ISM(全米供給管理協会)の製造業景気指数は48.6と、景気の強弱の境目といわれる50を下回った。製造業の景況感が50を下回る環境での利上げは過去に例がない。鉱工業生産をはじめ、米国の生産活動は全般的に軟調であり、景況感の悪化には注意が必要だ。FRB(米国連邦準備制度)は景気の支援、2%の物価目標の達成を念頭に緩和的かつ慎重に金融政策を進めると表明している。
一方、一時シェールガス革命に沸いたエネルギー業界では、原油価格の下落によって業績が悪化している。中国景気が安定しない以上、原油などの資源価格は不安定に推移することが想定される。そのため、米国の物価、企業業績の下振れリスクは無視できない。
利上げの影響も軽視できない。住宅ローン、消費者ローンなどの金利は上昇しやすくなっている。そのコストを吸収できるだけの所得増加が期待できればよいが、米国の企業業績は頭打ちの状況にある。利上げが景気を圧迫するリスクには注意が必要だ。
16年の日本経済の見通し
そうしたリスクに直面しつつも、在庫調整の一巡や早期の補正予算の成立などを通した財政面から景気支援を背景に、年初以降、わが国の景気は徐々に落ち着きを取り戻すだろう。当面、そうした動きが続くと見られることもあり、景況感は少しずつ上昇するだろう。
ただ、すでに賃金労働者の4割程度は、派遣社員やパートタイマーなどの非正規雇用が占めている。そのため、企業業績が拡大しても、家計の隅々にまで株高や賃金上昇の恩恵は届きづらくなっている。
また、これまでの円安、株高は海外の動きに支えられてきた。米国での利上げ観測がドルの先高観につながり、多くの投資家がドル買い、円売りを行った。株価も海外投資家の行動に大きく影響されている。
もし米国の景気が想定以上に落ち込めば、急速にドルが売られるかもしれない。その場合、円高が進み、株価や企業業績への下押し圧力は高まるだろう。それが景気への懸念を高め、消費が低迷するリスクがある。国内の消費基盤が不安定なだけに、景気は海外の動向に影響されやすいといえる。
短期間でこうしたリスクへの抵抗力をつけることは容易ではない。米国の景気が想定以上に回復すれば、景気への期待も高まるだろう。しかし、15年末のデータ等を見る限り、その見方は楽観的すぎるかもしれない。それらの要因を総合的に考えると、今年の日本経済は、序盤は落ち着きを取り戻す可能性があるものの、その後、米国を中心とした海外経済のリスクを背景に、徐々に景況感の悪化が意識されてくるだろう。
昨年は中国経済という海外要因に足を引っ張られ、今年も米国経済の減速懸念をはじめとする海外要因に影響を受けやすい展開になると見られる。
(文=真壁昭夫/信州大学経済学部教授)