米国政府が財政の三重苦に陥っている。巷では、中国の景気減速に対する懸念に目が向かっており、米国についてはせいぜい利上げ時期が注目を集めている程度。しかし、米国の財政問題はデフォルト(債務不履行)の可能性が高まっており、実際にデフォルトという事態を引き起こせば、その経済に与えるインパクトは中国の景気減速の比ではない。
米国政府が抱える財政の三重苦とは、(1)2016年度予算、(2)高速道路信託基金、(3)債務上限の3つだ。
米国の財政年度は10月から始まる。本来であれば、10月1日までに16年度予算を成立させないと、政府機関の一部閉鎖が発生する事態に追い込まれる可能性があった。これは、9月30日に暫定予算を成立させることで、なんとか回避した。しかし、暫定予算の期限は12月11日までで、それまでに16年度予算を成立させておく必要がある。
狭義ではデフォルトというと国債の償還や利払いが停止することを指すが、広義には連邦政府職員の給与の支払い停止や公的年金の給付停止、予算停止による政府機関の一部閉鎖も指し、その点では16年度予算が成立しなかったことで、デフォルト直前まで追い込まれていたわけだ。
高速道路信託基金は、高速道路の建設等に関する予算。その根拠法が7月末に一度期限を迎え、3カ月間の短期延長を行った。つまり、10月29日に再び根拠法の期限が到来するため、根拠法の延長を行わないと、高速道路を中心とした公共事業がストップする。
そして、もっとも問題なのが、連邦債務の法定上限の引き上げだ。米国政府は財政赤字を支えるために、年々米国債を発行して借入をする必要がある。ただし、その米国債の発行上限(債務上限)は法律で定められており、上限に達した場合には議会に債務上限の引き上げを認めてもらう必要がある。もし、上限の引き上げが行われなければ、資金調達ができず、まさしく国債の元利払いが停止するデフォルトに陥る。
10月には債務上限に達すると見られていたが、税収が好調だったことや、財務省が連邦職員の退職年金制度のための政府証券投資基金に対する国債の発行を停止するなどの“ヤリクリ”で期限を引き延ばしてきた。しかし、10月15日、ルー財務長官は債務上限の引き上げが行われなければ11月3日にデフォルトに陥る恐れがあると議会に対して警告を発している。
オバマ大統領はレームダック状態で制御不能
もう、おわかりだろう。高速道路信託基金の根拠法延長期限が10月29日、債務上限の引き上げ期限が11月3日、16年度予算の成立期限が12月11日と、これから財政問題の期限が軒並み到来するのだ。そして、これらの期限のうち、どれかひとつでも延長ができなかった場合には、米国でデフォルトが発生する可能性がある。
しかし、米国では来年に大統領選挙を控え、バラク・オバマ大統領がすでにレームダック(死に体状態)にあり、議会をコントロールする力がない。一方で、議会の多数を占める共和党は内部分裂を起こしており、16年度予算、高速道路信託基金、債務上限の引き上げのいずれについても、党内での方針が決まらない状況が続いている。従って、いずれの問題も、「期限が近づけば、デフォルトを回避するために、なんとかするだろう」などと、悠長に構えていられる状態ではない。年末にかけて、米国発の世界株安が発生するかもしれないのだ。
付け加えるなら、この財政問題が片づかない限り、米国ではおそらくTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)法案の審議に取り掛かることはないだろう。米国では国内のTPP承認は当分の間、先送りになると思われる。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)