デジカメが写真の常識を打破! 技術の進歩が生み出すした新ビジネスを映す痛快ドキュメンタリー
今回の番組:4月18日放送『カンブリア宮殿』(テレビ東京)
男の渡した名刺は靴ベラに使われた。
その男、白石晃は「あはは」と高らかに笑うが、内心は相当悔しかったに違いない。今回の『カンブリア宮殿』は村上龍氏も「非の打ち所がない」と悔しそうに絶賛し、小池栄子さんも「私も撮って欲しかった」と羨ましそうにする回だった。僕も痛快な言葉と実績に「そういうことだよな」と納得させられた。
フォトクリエイトとは社交ダンスや運動会、マラソン大会といったイベントの場で写真を撮り、販売する会社。プロのカメラマンを起用し、一流写真誌と遜色のないクオリティで被写体の一瞬を捉える。例えばマラソンマンの写真を前に「人が走ってるとき、着地した瞬間は筋肉が歪む。だから一瞬、筋肉が宙に浮くタイミングをみながら撮影する」と説明した。その迫力は額に飾られた写真を見れば納得出来るし、創業11年で年商24億円で、100人の社員を抱えるほどの実績が会社の成功を証明している。
そこに映るのが、サッカーのユニフォームを着た少年であったり、社交ダンスを楽しむ中年夫婦というのが、どこか不思議だ。しかし、それほど違和感を感じないのは映される人が真剣にそれと向き合っているからだろう。技術うんぬんではない一生懸命を、圧倒的技術を持ったプロが記録するという、これまでにない仕事が生まれている。
僕が思い出したのは小学校の頃、廊下に張り出された修学旅行の写真だった。壁いっぱいに貼られた写真の番号を書いて後日受け取るアレ。よく間違えて入ってて友達と交換したり、番組でも村上氏が言っていたけど、好きな子の写真をこっそり買ったり。それらの写真は「思い出」以上のモノにはならなかったが、フォトクリエイトのそれはまるでグラビアだ。僕が好きだったTさん、Sさん、Iさんのそんな写真があったらと想像せずにいられなかった。
番組のクライマックスとして紹介されたのが東京マラソンだった。カメラマン68人を配備し、スタート地点はもちろん、東京タワー、スカイツリー、銀座、ゴールと名所となるポイントを抑える。各コースを一万枚以上撮影し、総枚数は138万枚。村上龍氏が半笑いで、フィルムで撮影した場合の予算を計算するが、ざっと5000万は超えるだろう。しかし、デジタルならばコストはグッと抑えられる。ネットでデータをアップし、欲しい人が欲しい分だけを購入するから無駄なプリントをする必要がない。人件費を考えても数百万円の予算でまかなえたのではないだろうか。
これですよ、これ。僕が同意したのはこの考え方だ。
10数年前から映像の世界でもデジタル化が急速に発達したが、話題になるのは質の面ばかりだった。画質がフィルムにいかに近づけるか、または遜色がないかが語られる。だったらフィルムを使うべきではないか、と僕は思う。費用が変わらないのなら尚更だ。価格の問題ではない、好みの問題だ。特に日本人はモノへの執着が世界でもずば抜けていると思う。好きなモノになら、時代や利便を無視して向き合うではないか。『開運! なんでも鑑定団』(テレビ東京)のような番組が続くこの国を、世界に誇っていいと思う。
文化を守るのは国ではない。マニアなのだ。
僕はデジタル化の良さとは、敷居を下げたことだと思う。プロにしか出来なかった技術をボタンひとつで可能にし、データにまとめることでコストをゼロにまで近づけてしまうこと。そしてより多くの人に届け、共有すること。シンプルと拡散がデジタル化の魅力だと思う。そこに目をつけたのがフォトクリエイトなのだ。
小学校の壁にいっぱいに貼られた写真が、各個人のPCに変わり、半目の残念な一枚がグラビア級の写真へと進化する。しかし、写真そのものの魅力や役割は決して失われていない。そこが凄いし、感動的ですらある。
結果としては、名刺を靴ベラ代わりに使った人、グッジョブですよ。こんなにも会社が成長したんだから。
(文=松江哲明/映画監督)