「インプラント専門医」に注意! コンビニを超えた歯医者過剰社会
「週刊ダイヤモンド 6/15号」の特集は『もうダマされない! 歯医者の裏側』だ。
歯医者の数は2010年に10万人を突破。歯医者の適正数は人口10万人当たり50人が目安とされるが、今や80人。その大半は歯科医院を開業し、開業数は6万8000件で今やコンビニエンスストアよりも多い。1日当たり5件のペースで廃止されるも、5件のペースで開設され、街は歯科医院の看板で溢れ返っている。
歯医者過剰が経営の悪化を招き、患者争奪戦が激化する。技術も知識もないまま新しい治療法に手を出したり、過度なもうけ主義からのトラブルの多発が患者たちの不信感を招く――こうした負の連鎖から「歯医者は敗者」と自嘲する歯医者も多い。危ない歯医者にひっかからないために、歯医者と業界の見えざる真実、各治療法のメリット・デメリットに迫った特集だ。
特集「Part 1 治療費のカラクリ」では、国民医療費全体が膨らんで国の財政を圧迫する中、年間2兆5000億円前後の横ばいに厳しく抑制されている歯科の医療費を紹介している。単価の高さがうまみだった自由診療も競争激化の中で今や値引き合戦だ。
インプラントは、まともな治療をすれば45万円はかかるが、値下げ合戦で20万円という価格帯も出てきている。インプラント治療を行うには1000万円以上するCT(コンピュータ断層撮影装置)を導入することが欠かせない。数百万円する外科キットやインプラントの在庫も必要で、初期投資額は合計2000万円以上。「年100本は埋入しないと採算が合わない」のが現実。この3年で3000カ所以上が撤退し、11年現在のインプラント治療を行う医療機関は1万1331カ所となっている。
インプラントよりも手を出しやすいのが歯を漂白するホワイトニングだ。投資負担が低く手を出しやすいが、薬剤が1回につき1万円ほどかかり、2~5万円では採算割れであることが多い。歯科矯正も、かつては患者1人100万円が当たり前だったが、相場は60万円程度に下がったという。
特集『Part 2 インプラントにだまされない』ではこぞって参入し、歯医者の技術不足や強引な営業によってトラブルが多発したインプラント市場について特集している。なんと診療所の6割がトラブルを経験しているという。また、「インプラント専門医」というような資格は、学会などの私的認定にすぎずグレーゾーンで注意が必要だ。公的には「口腔外科専門医」といった肩書が望ましい。
特集『Part 3 歯を守る技術 最新事情』では、削らない、抜かない治療を紹介しているが、その多くは全額自己負担の自由診療になってしまうという。
特集『Part 4 いい歯医者 悪い歯医者』ではインプラント治療における全国444医療機関の治療状況を一覧にまとめ、特集『Part5 歯医者・歯科大の末路』では、診療所の6%が赤字経営という現状を紹介している。
今回の特集で知っておきたいのはやはり、歯医者過剰問題とインプラント問題だ。食生活の欧米化が進んだ高度成長期に国民の虫歯の数が急増し、国は歯学部を増やして歯医者を大量生産。その蛇口を閉め損ね、歯医者過剰に陥った。経済学でいえば、過剰供給は供給側(歯医者)の競争を生むはずなのだが、生み出したのは歯医者への不信だった。
国内インプラント市場全体は急激に縮小している。出荷本数は2008年をピークに減少に転じ、12年にはピーク時の約3分の2となる40万本強まで落ち込んだ。患者離れが始まったきっかけは、07年に東京の飯野歯科がインプラント手術中に患者を死亡させた事件だ。来院初日に手術する強引な体質が、事故を引き起こしたといわれている。
11年には国民生活センターがインプラント治療のトラブルが多いとし、歯科業界に対して早急に対応するよう要望書を提出。コストカットのためにインプラントを使い回す歯医者への告発もあり、「インプラントは危険」という世論が形成された。今年に入っても、福岡・博多の一等地にある歯科医院が倒産している。約7億1500万円の負債を抱えているうえに、60人以上の患者がそれぞれ数百万円ものインプラント治療費を前払いしていたことから、日本中のインプラント業界に激震が走っている。こうした医療への不信に対し、どこかで既視感があると思ったら、「週刊ダイヤモンド 2013/3/16号」による特集『目にかかるカネとリスク』の視力矯正手術「レーシック」について、08年の約45万件をピークに2012年は約20万件と半減した事実だ。
レーシックも顧客獲得から価格競争が激化。手術機器をろくに殺菌処理しない、ずさんな管理体制の下でレーシックを受けた患者の約1割に当たる67人が感染性角膜炎などに集団感染した2009年の銀座眼科の感染症事件でイメージが一気に悪化したのだ。規制を緩和すれば、参入が容易になり、競争が始まる。コストが低下するために、国民の利便性が向上するという2000年代前半の「規制緩和」論も、安全第一の医療部門に関してはそう簡単には通じないということのようだ。
眼科医も過剰、歯科医も過剰、ほかにも弁護士も税理士も過剰だ。少子化で顧客が急速に減少しているにもかかわらず、資格者だけはまだまだ増えているようだ。
(文=松井克明/CFP)