2024年度の日本経済は、弱い内需と海外経済減速を背景に鈍い回復ペースが続く展開になりそうだ。政府は21日に閣議了解した経済見通しで、総合経済対策に盛り込んだ定額減税による個人消費の下支えや、企業の投資促進策により内需主導の成長が実現すると見込んだ。
だが、政府の見通しは24年春闘で前年に引き続き高い賃上げ率を確保するのが大前提。また、仮に賃上げが実現してもけん引役不在の個人消費がどこまで伸びるかは不透明。人手不足による供給制約などリスク要因も多い。
▽減税で所得下支え
政府経済見通しは、24年度の実質GDP(国内総生産)成長率を1.3%と試算し、23年度の1.6%より鈍化する見込みだ。ただ内訳を見ると、個人消費は1.2%増(23年度は前年度比0.1%増)、設備投資は3.3%増(同横ばい)と、自動車輸出の回復など外需に支えられプラス成長を確保した23年度と比較し、内需主導の堅実な経済成長の姿を描く。
24年6月以降に実施される1人当たり所得税3万円、住民税1万円の定額減税の効果もあり、所得が押し上げられ消費を支えるとの目算もある。
内閣府は経済見通しと同時に、24年度は所得の増加率が前年度比3.8%となり、物価上昇率の2.5%を上回るとの試算を示した。3.8%の増加率のうち2.5ポイントは賃上げによるもの。3.58%と30年ぶりの高い賃上げ率となった23年春闘に引き続き、24年春闘でも高い賃上げが実現することが大前提となる。
連合は24年春闘方針で要求水準を「5%以上」とし、「5%程度」だった前年から表現を強めており、要求側は賃上げ機運の継続に期待を高める。経営側も「適正な物価上昇に対し、継続的、構造的な賃上げを目指したい」(十倉雅和経団連会長)と前向きな姿勢を示すが、所得の増加が消費の増加につながる好循環の実現には、雇用の7割を占める中小企業にどこまで波及するかが鍵を握りそうだ。
▽高い賃上げ実現しても
厚生労働省が今月22日に公表した10月の毎月勤労統計調査確報値で、実質賃金は前年同月比2.3%減と19カ月連続のマイナス。現金給与総額(名目賃金)で見ても同1.5%増で、3.58%という高い賃上げ率があった割に伸びていない。賃上げの恩恵が大企業に留まり、中小企業への波及が不十分となっている可能性があり、24年春闘で一定の賃上げ率を達成したとしてもそれが消費に勢いをもたらすかは不透明だ。
これまで個人消費の回復を支えてきた旅行などのコロナ禍からのリベンジ消費も持続性が問われる局面に入ってきている。感染症法上の分類が「5類」に移行してから初めての夏休みを含めた23年7~9月が期待はずれとなり、一巡したとの見方も浮上。消費回復のけん引役は見いだしづらく、第一生命経済研究所の新家義貴シニアエグゼクティブエコノミストは「24年度も消費の伸びは緩やかなものに留まる」と予測する。
▽投資は伸びるか
政府の経済見通しでは、24年度の設備投資を3.3%増と高い成長を見込む。財務省が1日に発表した7~9月期の法人企業統計によると、金融業と保険業を除く全産業の経常利益は23兆7975億円と同期としては過去最高を更新。企業の設備投資意欲は高く、円安の後押しも背景に稼いだ利益が投資に向かう姿を描く。
だが、内閣府が発表したGDPの設備投資は、23年4~6月期と7~9月期の2期連続で減少しており、23年度1年間で見ても前年度比横ばいとなる見通し。14日に発表された10月の機械受注統計では、基調判断を1年連続で「足踏みが見られる」に据え置いており、高い投資意欲や企業収益の割に力強く回復しているとは言えない状態だ。
背景には物価高騰による機械設備や建設資材価格の高騰や、人手不足に伴う建設コストの上昇があるとみられる。企業は設備投資に資金を投じているものの、機械類も値上がりしているため実質で見ればそこまで投資できておらず、またビルなどを建てようとしても思うように建てられないという状況だ。
円安の一服感や資源価格の落ち着きなどで、コスト高は24年にかけて緩和されていくと見られるが、少子高齢化による構造的な人手不足には即効性のある処方箋はなく、今後も成長制約となる恐れがある。
さらに24年は、海外景気の減速も日本経済の大きなリスクとなりそうだ。中央銀行の利上げの影響は欧州では既に顕在化しており、24年初頭に景気後退入りを予測する声もある。旺盛な消費に支えられている米国経済も、24年中盤には減速は避けられない見通しだ。中国経済も不動産市況の低迷に伴う成長鈍化が避けられず、財(モノ)の輸出は日本経済のけん引役とはなりえないだろう。
海外経済の減速は輸出企業の投資控えという形で設備投資にも下押しとなる懸念があり、24年度の日本経済はけん引役不在のまま実感を欠く緩やかな回復が続くことになりそうだ。
日本経済研究センターが18日にまとめたエコノミスト38人の予測では、24年度の成長率は0.9%と厳しい見方で、政府が描く成長の姿との乖離(かいり)がある。(経済部・岩嶋紀明)(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2023/12/28-15:46)