先般(2020年11月16日)、内閣府は「四半期別GDP速報」(2020年7-9月期 1次速報値)を公表した。このデータから何が読み取れるか。
まず、図表1の「季節調整系列」で確認してみよう。この系列は、2000年1-3月期から2020年7-9月期における原系列の名目GDPにつき、季節要因を考慮して年換算に推計したもので、ピーク時の値は2019年7-9月期の557.8兆円となっている。
新型コロナウイルスの感染拡大や4月上旬の緊急事態宣言による外出・営業の自粛により、2020年4-6月期の名目GDPは504.6兆円に落ち込んだが、5月下旬の緊急事態宣言の全面解除のほか、2020年度の第1次・第2次補正予算やその後の経済活動の緩やかな回復に伴い、同年7-9月期の値は531.1兆円まで持ち直してきている。
もっとも、経済活動の回復はまだ途上であり、2020年7-9月期の名目GDPの水準は、ピーク時(2019年7-9月期)と比較して依然として約27兆円も低い水準にある。
このため、政権内部の一部から「30―40兆円」の追加の経済対策が必要との声も上がり始めているが、図表1は、季節調整を行い、四半期データを年換算にした推計値であり、原系列データでも確認する必要がある。
では、図表2の原系列データでは何が分かるか。現時点(2020年11月下旬)では、2020年10-12月期の値は誰も分からないため、図表2では、2000年-2020年の四半期別GDPデータを用いて、それぞれの年の1-9月の合計値を折れ線で描いている。この折れ線のピーク時の値は2019年1-9月の合計値(411.5兆円)だが、このピーク時の値と比較して、2020年1-9月の合計値(391.5兆円)は約20兆円落ち込んでいる。
したがって、仮に2020年10-12月期の値が2019年10-12月期と同程度の水準までに回復すると、2020年の名目GDPは2019年よりも27兆円の落ち込みでなく、約20兆円減に留まることになる。
この関係で重要なのは経済活動の回復のスピードだが、これは図表3のとおり、原系列データを用いて、2019年と2020年のデータを比較すると分かる。緊急事態宣言の発動もあり、最も厳しかった2020年4-6月期の値は、2019年4-6月期と比較して、12.3兆円も落ち込んでいる。しかしながら、緩やかに経済活動が回復し始めていた2020年7-9月期の落ち込みは、2019年7-9月期と比較して、6.5兆円にまで縮小している。
このトレンドが継続すれば、2020年10-12月期は7-9月期よりも改善する可能性もあるが、それは今後の感染状況に大きく依存するだろう。冬で気候が変わり、新型コロナウイルスの感染拡大の兆候が再び見られるなか、いま日本経済は正念場を迎えている。
(文=小黒一正/法政大学教授)