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中国の自滅、不動産会社に追い貸し→不良債権膨張…若者失業率46%との試算

文=中島精也/福井県立大学客員教授
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中国・武漢市(「gettyimages」より)

 2024年の中国経済見通しは、引き続き深刻な不動産不況と米中新冷戦の進行により悲観的にならざるを得ない。23年12月に習近平国家主席、李強首相出席のもとで24年の経済政策を決める最重要会議「中央経済工作会議」が開催された。会議は23年を経済回復と発展を進め、内外の困難を克服し、改革開放を深化させることで内需の拡大と経済構造の最適化を図った1年と評価している。ただし、課題として需要不足、過剰生産能力、成長期待の低下、ボトルネック、複雑な外部環境などを指摘しており、中国が抱える経済問題を懸念している様子も伺える。

 それを踏まえて24年の基本方針は前年の「穩中求進(安定の中で前進を求める)」を踏襲し、「先立後破(先ず新しい制度を作り、その後に古い制度を破棄する)」の方針の下で安定成長と成長期待、雇用の安定を実現する政策を採用するとしている。

 重点政策として、第1に科学技術イノベーション主導の現代産業システムの構築を上げている。これは米中先端技術競争を意識してのことだろう。第2は国内需要の着実な拡大のため、潜在消費を刺激することで投資を喚起し、消費と投資の好循環を実現するとしているが、現状の消費不振を変えるだけの具体的施策が見られない。

金融機関に大きな皺寄せ

 第3は不動産、地方債務、中小金融機関など重点分野におけるリスクの防止と解消をあげている。不動産については資金繰り支援と物件の早期完成を進めるとしているが、債務超過の不動産会社に追い貸しすれば、金融機関の不良債権が膨らむのは明らかだ。また、地方政府傘下の地方融資平台の救済には地方政府が発行する地方債で対処する方針だが、地方債を引き受けるのはやはり金融機関であり、金融機関に大きな皺寄せがいくのも自明だ。

 地方政府の債務、金融機関の不良債権問題も根っこは不動産不況にあるので、不動産業界を救済できれば、不動産市場が回復して地方融資平台の債務問題が解消され、公有地の使用権譲渡による収入「土地出穣金」が増加して地方財政の健全化も同時に達成でき、さらに不動産業や地方融資平台への貸し手である金融機関の不良債権問題も解決されるというシナリオである。日本もバブル崩壊時に不良債権処理を逡巡して「失われた10年」を招いたが、中国もバランスシートを改善させて成長につなげるという発想はなさそうだ。これでは不動産問題の抜本解決には程遠く、中国経済の長期停滞を招く可能性が高い。

 不動産業界の債務は大手の恒大集団が2.4兆元、碧桂園が1兆元であり、中国人民銀行によれば金融機関の不動産業向けの融資残高は53兆元(23年9月時点)と発表されており、GDPの4割を超えている。地方政府の債務はIMFの試算によればGDPの50%、地方融資平台が30%で、合わせると100兆元にも達する。不動産業界と地方政府及び地方融資平台が産み出す付加価値はGDPの5割近くといわれており、この不動産開発の停滞が経済成長の重しになるのは明らかである。

中国への投資が減少

 加えて習近平が「共同富裕は社会主義の本質的要請である」と強調していることは若手起業家の意欲を大いに削いでいる。彼らは習近平独裁の下での中国経済の将来を悲観しており、個人資産と事業を西側に移転させたいと画策している人も多いようだ。アニマルスピリッツを持った起業家がいなくなれば、投資が停滞して、潜在成長率の低下は避けられない。

 また、鄧小平の「改革開放」による中国経済の潜在成長力上昇に期待して積極的に投資してきた西側企業は米中新冷戦のもとですでに中国への投資を減らし始めている。よって、投資の増大に伴って拡大してきた貿易も縮小せざるを得ない。失業率は5%で安定しているように見えるが、若者の失業率が深刻化している。驚いたことに中国国家統計局は若者の失業率統計を23年6月の21.3%を最後に発表中止してしまった。北京大学の張丹丹准教授は実際の若者の失業率は46.5%であると試算している。「臭いものには蓋」では中国統計は内外の信頼を損なう。

 このように中国経済は文字通り「内憂外患」であり、先行きは極めて不透明である。中国が24年の政府目標である5%成長を実現するのは極めて困難といわざるを得ない。

(文=中島精也/福井県立大学客員教授)

中島精也/福井県立大学客員教授

中島精也/福井県立大学客員教授

1947年生まれ。横浜国立大学経済学部卒。ドイツifo経済研究所客員研究員(ミュンヘン駐在)、九州大学大学院非常勤講師、伊藤忠商事チーフエコノミストを経て現職。丹羽連絡事務所チーフエコノミストを兼務。著書に『傍若無人なアメリカ経済─アメリカの中央銀行・FRBの正体』(角川新書)、『グローバルエコノミーの潮流』(シグマベイスキャピタル)、『アジア通貨危機の経済学』(編著、東洋経済新報社)、『新冷戦の勝者になるのは日本』(講談社+α新書)等がある。日経産業新聞コラム「眼光紙背」と外国為替貿易研究会「国際金融」に定期寄稿。

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