3月17日 付「東洋経済オンライン」記事『最新版「大学就職率ランキング」ベスト100 文理別、地域別「就職に強い大学・学部」はどこか』によれば、アベノミクスで景気回復に大きな期待が寄せられる中、2013年の新卒大学生の就職状況は大幅に改善。就職率は79.0%(大学通信の調査による)で、リーマンショックで企業が採用を控え始める直前の09年の水準である80%台に戻りつつあるという。
ただし、回復しているといっても、その中心は理系だ。文系の就職率が78.0%に対して、理系は84.1%と6.1ポイントも高くなった。就職を重視した志望校選びにもこの傾向が反映されて、入試では理系の人気が高く、文系の人気が低い「理高文低」状態が続く。
文系のトップは「新潟医療福祉大学・社会福祉で、就職率99.2%の高い値だった。以下、福山平成大学・福祉健康、岩手県立大学・社会福祉、東京福祉大学・社会福祉、岐阜聖徳学園大学・教育、岐阜女子大学・家政と続く」。人材不足の分野である社会福祉系学部の強さが目立つ。
一方、理系のトップは「群馬パース大学・保健科で、就職率は100%だ。同大学は保健科の単科大学で、看護と理学療法の2学科があり、今年、検査技術学科を新設した。2位の甲南女子大学・看護リハビリテーション学部も、看護と理学療法の2学科で構成されている」。人材不足の分野である医療系学部の就職率の高さが際立つ。
「3位以下は、京都薬科大学・薬、神戸薬科大学・薬、東北薬科大学・薬、武蔵野大学・薬など医療系の薬学部が並んで」いる。
売り手市場の薬剤師
新卒薬剤師は、大変な売り手市場になっている。「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社/3月29日号)のコラム『就職率92%の超売り手市場 薬剤師争奪で初任給30万円も』によれば、薬学部は4年制から6年制に移行したために、「4年制の最後の学生が卒業した09年3月から、6年制が始まった06年入学生が卒業する12年3月まで、新卒薬剤師がいない空白期間が生まれた」「6年制に移行した直後は、学費が2年分余計にかかることが敬遠され、入学希望者が減った」という。13年3月卒の薬学部生9491人の就職率は92%に上る。
前出の東洋経済記事でも「昨年あまりにも人気が高くなり、思ったように採用できなかった製薬会社、調剤薬局、病院などが多かったようで、今年も採用意欲が衰えず就職は好調」という。
薬学部生に人気なのは、生涯賃金が最も高い製薬会社で、創薬を手がける研究職は倍率が1000倍近くにもなるという(就職先の割合としては4%)。
「病院も人気の就職先の一つ。医療現場で貢献できるため、新入生の間では、薬学部を目指した理由の筆頭なのだという。ただ、5年次の必須科目である病院での実務実習で、医者が頂点に君臨する病院内での薬剤師の地位の低さを目の当たりにし、別の道を選ぶ学生もいる」(前出「週刊ダイヤモンド」より)
病院・診療所への就職割合は30%。国立病院は公務員に準ずるため初任給は低く、私立病院は2万円程度高い。薬局は同38%だ。薬剤師不足の地域は高給。ドラッグストアは初任給30万円超など待遇を上げて薬剤師確保を図っているが、販売員としての雑務が多く、昇給が少ないため人気がなく、同7%にとどまる。
就職割合としては2%だが、薬剤師の資格が必要な職場で、ひそかな人気を集めているのが保健所だ。
「週刊ダイヤモンド」によると、「食中毒など飲食店の衛生監視を担うのは実は薬剤師なのだ。献血推進や病院、薬局の開設許可など保健所における業務はなかなか幅広い。公務員試験は必要なものの、安定した職業であるため、国立大学の学生に人気だ」という。
薬剤師の供給不足は20年までは続くと見られている。就職状況を反映した入試でも理系の人気高は続きそうだ。
一方、文系の資格はといえば、『資格を取ると貧乏になります』(佐藤留美/新潮新書)という新書が話題になっている。弁護士、公認会計士、税理士、社会保険労務士……狭き門をくぐり「高給で一流でエリートな国家資格」を得た、「センセイ」と崇め奉られるハズの存在が、近年の規制緩和による資格取得者数の激増で、「資格貧乏」と化しているという。文系の資格の未来は見えにくいが、理系の資格はまだまだまぶしそうだ。
(文=松井克明/CFP)