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住宅ローン、固定金利は損?「変動金利は危険」はウソ?利子支払い額で大きな差

文=松井克明/CFP
住宅ローン、固定金利は損?「変動金利は危険」はウソ?利子支払い額で大きな差の画像1「Thinkstock」より

 10月31日、日本銀行は追加金融緩和を決定し、「ハロウィン緩和」と呼ばれるサプライズに市場は色めき立った。その直後から株価は急伸、円安にも拍車がかかり日経平均株価は1万7000円台を回復、ドル円相場は1ドル115円をつけた。中長期国債利回りは昨年春以来の水準まで低下している。新発10年国債(月末終値、長期金利)は0.4%台と過去10年で最も低い水準だ。

 住宅ローン金利も低い。住宅ローンは大きく固定金利と変動金利に分けられ、固定金利は一定期間適用される金利が固定され、逆に適用される金利が経済の動向に合わせて変動するのが変動金利だ。このどちらか、またはミックスした形で住宅ローンを組むことが多い。変動金利は、日本銀行の金融政策の手段である政策金利(無担保コールレート・オーバーナイト物の誘導値)に連動し、固定金利は長期金利(=国債利回り)の影響を受ける(参照:日本銀行HP「長期金利の決まり方……将来の『予想』が大事」)。

 固定金利はここ数年、最低水準が続いている。日銀が長期国債買い入れを年間約80兆円に拡大したことで、長期金利(=国債利回り)は低く維持され、固定金利は低くなっているためだ。不動産会社の営業担当者は「固定金利が最低水準で、金利が上がる前の今こそ、住宅ローンの借り時です」というセールストークを使い続けている。確かに2012年頃には、住宅金融支援機構が民間金融機関とタイアップして融資を行うフラット35(全期間固定金利)の最多金利も2%前後で最低水準と言われていた。ところが14年11月現在、最多金利は1.61%とさらに低くなっている。

変動金利はリスクが高いというのは本当?

 しかも、変動金利はもっと低い。現在の都市銀行の多くが提供する住宅ローンの変動金利の店頭金利は2.475%であり、最優遇金利は1.7~1.75%であるため、実質0.775%~0.725%となり、史上最低水準の金利なのだ。09年1月からずっと店頭金利は2.475%(実質0.7%台)で、「住宅ローンの借り時」がずっと続いていることになる。また、日銀のゼロ金利政策のため、短期金利(変動金利)は最低水準を推移している。このため、変動金利といいながら、事実上「固定」されてしまっているのだ。

 これまで、変動金利はリスクが高いといわれてきた。例えば、「SUUMO 新築マンション 首都圏版」(リクルート/11月4日号)では、デメリットとして「金利が上がるリスクが高い」などと紹介されている。金利は最低水準で、今後は上がっていくと考えられる。「いまこそ借りどき、不動産の買いどき」「金利は変動金利ではなく固定金利を」と勧める。

 しかし、現状では当面、金利が上がっていくとはなかなか考えにくい。というのも、アベノミクスでは「大胆な金融緩和」が“3本の矢”の1本だからだ。「大胆な金融緩和」では、金利は低水準となる。ならば、特に政策金利に連動する変動金利は大きく動かないという結論になる。『住宅ローンの教科書』(加藤孝一、池上秀司/週刊住宅新聞社)によると、ファイナンシャルプランナーである2人の著者も変動金利が上昇する可能性は低いとしている。

「今、日銀が利上げをするでしょうか。常識で考えれば答えはNOです。確かに将来は上がるかもしれませんが、株価が上がっただけでいきなり変動金利上昇に結び付けるのはどうなのでしょうか。(略)さらに、政府は2015年10月には消費税を10%にしたいと考えています。それまで(その後も)景気をよくしなければいけません。それまで利上げの可能性が高いとはいえないでしょう」(同書より)

 また、金利が上昇するにしても、変動金利の推移を過去20年で見てみると、店頭金利は1994年の4%を最後に2%台が続いており、4%まで上がるような事態にはならないだろう。変動金利の上昇幅と物価上昇率は同等に動くという説もあるが、「変動金利の基となっている無担保コールレート・オーバーナイト物が短期間で2%も上昇するというのは低金利の今では可能性がゼロでないだけで、常識で考えればあり得ません。仮に変動金利が2%も上昇するならば物価上昇率は2%では済まないと考えるのが妥当でしょう」(同)と述べ、金利が大きく上がることは考えにくいとしている。

デメリットばかり強調される変動金利

 さらに「変動金利の返済額は金利が何%になっても5年間は一定ですし、5年後に返済額が上がっても、それまでの返済額の1.25倍が上限と決まっています」と述べ、変動金利のデメリットが強調されすぎだと、疑問を投げかけている。

デメリットとメリットを比較して考えてみれば、それがよくわかる。

「確かに0.775%の変動金利は、将来金利上昇するでしょう。しかし、将来であれば利息を形成するもう一つの要素である元金は確実に減っています」(同)

「変動金利で借り入れれば、当初から固定金利で借りるよりも残高の減少は促進されます。月々の返済額は固定金利よりも少ないので、繰り上げ返済資金もより多く作れます。それを適宜活用すれば、元金返済はより進みます」(同)

 このように、現状の金利水準では固定金利よりも変動金利のほうが元金は早く減る――という事実を同書ではシミュレーションしている。例として、4000万円の借入金を35年返済としてローンを組んだ場合、変動金利0.775%と全期間固定2.3%での毎月の返済額を比較すると「変動金利の返済額は10万8768円、一方全期間固定のほうは13万8746円となり、約3万円の差があります。(略)1回目の利息と元金を確認してみると、変動金利の1回目の支払利息は2万5833円です。10万8768円からその金額を引いた8万2935円が、実際の借入返済(元金)に回ります。では、全期間固定金利の利息はいくらになるでしょう。ひと月3万円多く返済するのですが、1回目の利息は変動金利よりも5万円以上も多い7万6667円です。そして元金に充当するのは、残りの6万2079円になります。返済額が多くなるのに実際の借り入れの返済(元金)は、2万円も少なくなります」(同)。

 つまり、変動金利にしたとして、返済期間中に金利が上がっても、それまでに元金返済が相当に進むと考えられ、負担は大きなものにならないという。

 逆にいえば、元金返済のスピードが遅い固定金利はその分、利息をより多く払っているということだ。この利息は金融機関の利益である。現状では、固定金利を選べば金融機関は得をし、住宅ローン負担者は損をすることになる。

 かといって、同書は、絶対に変動金利を選ぶべきと勧めるわけでもない。「固定金利を選ぶのが賢い」とされる固定金利一辺倒の風潮に疑問を投げかけているのだ。実際に低金利時代のこの10年間、変動金利を選んでいたか固定金利を選んでいたかで、元金の減り方は大きく違っているはずだ。先のシミュレーションに基づけば、5年間で元金は全期間固定が3606万円、変動金利は3493万円となっており、その差は113万円となる。

メディアやFPにも疑問

 しかし今までに、この元金の減り方の違いを説明するメディアはあっただろうか。

「なにより、『変動金利を固定金利に』という風潮が強まったことで、実際にそのような行動を取った消費者がいたとすれば、メディアの被害者であり、騒ぐだけ騒いでその後の検証を行わない無責任な姿勢については疑念を抱かざるを得ません」(同)

 今回のハロウィン緩和に関しても、前出『住宅ローンの教科書』の著者の一人でありファイナンシャルプランナー(FP)の池上秀司氏は、自身のブログでメディアや専門家に手厳しいコメントをこう書いている。

「私が理解できないのは、このような住宅ローンに関して重大なニュースがあったにも関わらず、多くのFPがそれについての情報提供をしていないという点です。普段、どうでもいいときに『変動金利は危険です』と進歩のないネガティブキャンペーンに必死になり、消費者に無用な不安を与えている割には、こういった変動金利で借り入れしている方に安心していただくための情報提供はほとんど目にしません。

 それこそ、『変動金利で借入するならば、金利に関する情報をこまめにチェックして』などといっていますが、これだけ重大な情報をスルーしているのですから、説得力がまったくありません。なにせ、この金融緩和とは彼(彼女)らの見立ての180度逆の流れなのですから、その本人達が情報を精査する能力を有しているとは思えず、専門家を名乗ることには疑念を抱かざるを得ません」(「池上秀司のブログ」より)

 業界関係者にとっては厳しすぎるかもしれないが、真っ当な指摘ではある。
(文=松井克明/CFP)

松井克明/CFP

松井克明/CFP

青森明の星短期大学 子ども福祉未来学科コミュニティ福祉専攻 准教授、行政書士・1級FP技能士/CFP

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