●深刻な人材不足の飲食施設
最近は景気の改善に伴って正社員志向となっているのか、アルバイト応募者は減少している。そのため、ますます現場は苦しくなっているといい、この冬はTDRのキャスト募集広告が目立つ。
「TDRはキャスト募集を頻繁に行っていますが、募集しているのは、忙しい時期限定の短期キャストと『フードサービスキャスト(飲食施設の接客)』『カリナリーキャスト(調理・洗い場)』が中心です。つまり調理関係の部署が不人気なのです」(同)
それもそのはず、食事時ともなれば、どの店も場内の数万人のゲストが殺到して行列をつくる。「単純作業の繰り返しで、しかも作業量が膨大なため、腱鞘炎にかかったりケガをする人も少なくない」「リゾート外の飲食店のほうが働きやすい」といった声も多い。コストカットで最少人数のキャストしか配置しないので、調理関係も過酷なのだ。飲食施設でも機械のように働かされている。
キャスト募集に関して、かつては募集広告を最寄りの路線には決して出さなかったという。オリエンタルランド入社組で、マーケティング担当として「集客数目標1000万人」プロジェクトを担った渡邊喜一郎氏は、著書『ディズニー こころをつかむ9つの秘密』(ダイヤモンド社) の中で次のように述べている。
「『興ざめ』させないという部分では、私たちオリエンタルランドの社員も細心の注意を払っていました。ほんの一例ですが、私が今も覚えているのは、当時の採用活動の方針です。開業当時、東京ディズニーランドに最も近い駅は、地下鉄東西線の浦安駅でした。キャストの採用をするのであれば、当然、通勤の便が良いほうがいい。となれば、東西線に中吊りなどで募集広告を打つのが普通のやり方です。しかし、私たちは、それをしませんでした。アメリカのディズニーランドから来ていたカウンターパートでマーケティングのプロフェッショナル、ノーム・エルダーが許さなかったのです。(略)彼は私たちマーケティング担当に言いました。『人事部に伝えてほしい。お客さまは東西線に乗って、東京ディズニーランドにやって来られる。そのときに、この募集広告を見たらどう思うか。夢を売っている私たちが、自らその夢を壊してどうするのか』頭を殴られたような衝撃がありました」
しかし、今では最寄りの路線である京葉線に、キャスト募集広告が大々的に展開されているほどだ。なりふりかまっていられない、ということなのか。
(文=松井克明/CFP)