個別会社ごとに見ると、依然としてトップの座はかつてのナショナルフラッグの名残りでJALが維持している。そのシェアは39.7%と、2位の全日空の37.3%をわずかながら抑えている。この単体のシェアだけに着目すれば、国策被救済会社JALの業容拡大を禁ずる行政指導「8.10ペーパー」(1月28日付本連載記事『スカイマーク、経営危機の元凶はJAL救済 根拠なき不当介入で市場歪める国交省と族議員』参照)を金科玉条として、国交省が昨年暮れにスカイマークのJALとの単独提携に待ったをかけたことや、今回もANA HDをスポンサーに選定するよう圧力をかけていることに理があるように見えるかもしれない。
しかし、それぞれのグループシェアに着目して実態を把握すると、まったく違った風景が見えて来る。ANA HDが出資をしたり社長を送り込んだりして経営に強い影響力を持つエア・ドゥ、ソラシドエア、スターフライヤーの3社のシェアを加えると、ANAグループのシェアは52.6%(1日当たり244.5便)と、すでにドル箱の過半数を抑えているからだ。
現在、策定が進められているスカイマーク再生計画で、ANA HDが再建スポンサーの座を射止めると、ANAグループのシェアはさらに上昇し、60.3%(1日当たり280.5便)に達することになる。日本の空を飛ぶ航空会社の中で、最後まで独立を保ち「第3極」と位置付けられていたスカイマークが、羽田空港の発着枠でガリバーの地位にあるANA HDの軍門に降れば、航空運賃をめぐる価格競争が損なわれ、ANAグループがプライスリーダーの地位を一段と強固なものとするのは明らかだろう。羽田発着便に限らず、随所で航空運賃は値上がりし、消費者の利益を損なう恐れがあるのだ。
●運賃値上げの兆候
そして、その兆候は早くも現れはじめている。ここで注目すべきは、スカイマークが撤退を決めたばかりの沖縄諸島を結ぶ路線だ。この地域の路線は、かつて新規参入したスカイマークが高止まりしていた運賃を劇的に引き下げたことで知られているが、今回は逆のことが起きようとしている。
2月10日付沖縄新報は社説で「4月以降、那覇-石垣線で当日から2日前の最低運賃(現在9900円)が2万1000~2万6000円と2倍以上になる可能性がある」と指摘した。実際、この路線ではANAグループが値上げの布石を打ったと映る動きがあった。3月末から始まる夏ダイヤで、那覇と石垣島を結ぶANA便を1日8往復から6往復に減便する一方で、新たにANA系のソラシド エアに那覇―石垣線(1日2往復)を就航させて、この2便をコードシェアするというものだ。ソラシド エアの運賃は搭乗3日前までに購入できる割引運賃で片道1万円と、スカイマークの同種の運賃(4000~6000円)はもちろん、ANAとJAL系のJTA(日本トランスオーシャン航空)のそれ(6900~7900円)も大きく上回る設定となっていた。
ここで、「ANAとJALの運賃は、新興航空会社のそれを下回ってはならない」という国交省ルールの存在が重要になってくる。まさかとは思うが、ANAもJAL系のJTAも国交省ルールを逆手にとって、スカイマークが撤退したら、ソラシド エアを上回る水準に運賃を変更する、つまり大幅値上げをするのではないかと取り沙汰されているのである。