こうした中でANA HDは、スカイマークを子会社化するわけではないので、競争環境には大した影響がないと強調したかったのかもしれない。全日空の篠辺修社長は2月26日付日本経済新聞の単独取材に応じ、スカイマーク支援について「経営権を取る立場ではない」と釈明した。
確かに、現行の国交省ルールの下では、ANA HDがスカイマークの発行済み株式の過半数を取得して経営権を握ることは難しい。というのは、国交省はANA HDやJALが新興航空会社に20%以上の出資をした場合、新興航空会社が持つ羽田空港の発着枠を強制的に返納させることにしているからだ。実は、このルールに従いANA HDは、エア・ドゥ、ソラシド エア、スターフライヤーの3社に対する出資比率をいずれも20%未満に抑えてきた。さらに国交省は水面下でANAグループに対して、「スカイマークへの出資は5年の期限付きで容認する」と釘を刺し、いずれは出資を引き揚げるように迫っているとの報道もある。
だが、航空業には、出資が一時的なものだとか、20%未満だからといって、事実上の経営権を握れないということにならない特殊性がある。というのは、「ANA HDの場合、コードシェアひとつで、提携先の首根っこを押さえてしまう仕組みを備えている」(元新興航空会社幹部)からである。同社のコードシェアは、提携先が同社のチケット発券システムを導入、売れ残り枚数をリアルタイムでカウントしながら両社が販売していく仕組みだ。
このやり方は、コードシェア比率を決めればチケットの実際の販売数とは関係なく代金を支払ってくれるJAL方式に比べて厳格な販売管理が可能な半面、導入に時間とカネがかかるデメリットがある。また、年間2億円前後といわれるシステム使用料に加えて、季節ごとのダイヤ改定や料金改正のたびにシステム改修の実費を支払うなど、コストもかさむ。何よりもひとたび導入すると、ANAの意向に異を唱えることは困難で、提携を解消するのも容易でない。それゆえ、経営の首根っこまで押さえられてしまうというのである。
●国交省、本末転倒の競争政策
国交省は、国策支援を受けたJALが業容を拡大し、航空行政批判が起きることを懸念しすぎたのだろう。JALとのコードシェアを軸にしたスカイマーク再建策に異を唱えた太田昭宏国土交通大臣の発言は、その象徴だ。背景には、「民主党政権の経済政策の成功モデル」という民主党のセールストークへの自公政権ならではの反発があったのも事実だろう。
しかし、国策救済会社の勢力拡大を恐れて、すでにドル箱の過半数を抑えている“独占企業”のシェア拡大を後押しするのは、競争政策の観点からすれば本末転倒であり、消費者利益を損なうことになりかねない。太田大臣は自らの発言によりスカイマーク経営破たんの引き金を引いたことの責任を痛感したのか、1月30日の記者会見で「第3極(として再生を果たすべきかどうか)ということではなくて、民事再生の中できちっと運航が行われて、利用者が回復をしていくということが、私は望ましいと思っております」と述べた。あれだけ拘泥していたスカイマークの「第3極勢力としての存続」にこだわらない姿勢を示し始めたことは、新たな気がかりといわざるを得ない。それでは、相変わらずスカイマークのANAグループ入りを後押ししているようにしか映らないのである。
国交省が本当に消費者利益の拡大を望み、「第3極」を存続させたいと考えるのならば、現代の黒船とでも呼ぶべきエアアジアの再登場を頭から否定するべきではない。むしろ、LCCへの羽田空港の発着枠の割り当て見合わせや、外資の本邦航空会社への出資を厳しく制限してきた規制体系を見直して、強い第3極の育成を後押しするほうが政策として筋が通るのではないだろうか。
(文=町田徹/経済ジャーナリスト)