一方、抵抗を続けてきたJA全中がついに政府の軍門に下ったとの見方も有力だ。万歳氏自身は記者会見で、保守分裂選挙となった佐賀県知事選以来、亀裂が決定的だった安倍晋三政権に対する恨み言を封印。今後は「お互いに力を合わせてがんばる」と、両者の関係修復に強い意欲を見せた。それゆえ、責任者である万歳氏本人がサプライズ辞任をして、政府・自民党に詫びを入れたという見方を呼んでいる。
●傲慢な農業改革反対運動
振り返れば、安倍首相もJA全中の傲慢な農業改革反対運動に振り回されてきた。万歳氏の2代前の会長だった宮田勇氏は、第1次安倍政権下の2006年12月、オーストラリアとのEPA(経済連携協定)交渉に反対する全国規模の集会で挨拶。「重要農産品の例外扱いが明確にならない限り、交渉入りは絶対すべきでない」と徹底抗戦を唱えた。この演説は、自民党農水族の首相官邸離れを促し、1期目の安倍政権が短命に終わる一因になったとされる。また、第2次安倍政権が参加の決断を下したTPP(環太平洋経済連携協定)交渉でも、JA全中は執拗な反対運動を展開してきた。
極め付きが今年1月11日に行われた佐賀県知事選だ。あろうことか、与党推薦候補が農協の支援した候補に敗れたのである。当時、菅義偉官房長官が自民党議員に対して「選挙活動ばかりやっている農協の改革は徹底的にやったほうがいい」と怒りをあらわにしたと報じられている。いくら有力な支持団体であり強力な集票マシーンであるといっても、これでは議員もたまらない。自民党農水族議員の多くが、まるで蜘蛛の子を散らすかのようにJA全中と距離を置き、与党内での支援活動を手控えた。
安倍首相は自ら、今通常国会の施政方針演説で、JA全中に「脇役に徹してほしい」と言い渡し、「60年ぶりの農協改革を断行し、農協法に基づく中央会制度を廃止」すると宣言するほど、JA全中潰しに傾注した。
●農業改革ではなくJA全中改革
その結果、今月3日に閣議決定されたのが、農協法、農業委員会法、農地法の関連3法の改正法案だ。農協法の改正では、JA全中を農協の意見の総合調整などを行う一般社団法人に移行させ、農協に対する全中監査の義務付けも廃止した。代わりに公認会計士監査を義務付けることにしたのである。これによって、JA全中は下部組織との強固なつながりをたたれ、約700の農協に課していた賦課金(年間約80億円)を徴収する道を失う可能性が大きいという。
このほか、農協法改正では、農協の経営目的として農業所得の最大化を盛り込んだ。さらに、組合員に経営指導や物資の運搬、販売、金融サービスといった農協事業の利用の強制を禁じることも明記した。農業委員会法の改正では、形骸化批判を受けて、委員の選出方法を公選制から市町村長の任命制に変えると規定した。農地法の改正では、企業の農業生産法人に対する出資規制を現行の「25%以下」から「50%未満」に緩和する規定を盛り込んだ。