全国各地の農協組織を束ねるJA全中(全国農業協同組合中央会)の万歳章会長が、先週9日の定例記者会見で突然、辞任の決意を表明し、永田町、霞が関の政策関係者の話題をさらった。肝心の辞任理由について万歳氏自身は、「ひとつの区切り」と曖昧にしか語らなかったという。
しかし、この辞任には、農協法改正をめぐって政府・自民党と激しく対立したJAグループが、戦略を一転して服従の姿勢を打ち出すことによって、政府・自民党との間に生じた深くて大きな溝の解消を目指す意図が見え隠れする。仮に万歳氏の狙い通りに両者の蜜月関係が復活すれば、入り口に立ったばかりの農業改革にピリオドが打たれ、懸案の農業再生がうやむやになりかねない。一般国民にとっては、高い農産品の価格引き下げが遠のくリスクが膨らむ“事件”である。
万歳氏は9日の会見で、まず、今回の農協法、農業委員会法、農地法の関連3法の改正に言及し、「これまでに経験したことのない組織の大転換が提起され、現場から多くの不安の声が上がる中で、極めて重い決断をした」と胸を張った。そして、「決断が『農業者の所得拡大』と『地域の活性化』に結びつくよう、総力を挙げてJAグループの自己改革に取り組む所存です」と殊勝に語ったという。これまでの徹底抗戦の姿勢を一変して、政府・自民党に従っていく姿勢を見せたのである。
その上で、最後に自身の進退に話題を移し、「農協法の改正法案が閣議決定されたことなどをひとつの区切りとして、また、今後の自己改革を実践していくために、新しい会長のもとで流れをつくっていきたい」と辞任の考えを明らかにしたのだった。
万歳氏の本来の任期は、17年8月までだ。新会長の選出は今年8月になる見通しで、昨年8月に再任されたばかりの万歳氏が2年余りの任期を残してサプライズ辞任することになったのである。
常識的に見れば、万歳氏の辞任はJA全中の弱体化策をのまされたことに対する引責辞任だろう。後述するが、今回の農業改革はまだ序の口で、全体としては骨抜きの感が強い。規制改革会議が14年5月にまとめた政府の当初案と比べると、抜け落ちたものが多いからだ。ただ、JA全中に限ると、話は違った様相を呈してくる。
●政府・自民党に詫び
例えば、都道府県レベルのJA中央会などが株式会社化を含む改革を自主判断に委ねられて、今まで通り独禁法の適用除外の存在として存続できることになったのに対し、JA全中は設立根拠を農協法から削除され、強制的に一般社団法人に移行することが決まった。加えて、下部組織の農協を締め付ける強力なツールだった「全中による会見監査の義務付け」も廃止される。これにより、JA全中はJAグループの政治活動の司令塔の立場を奪われるとみられている。こうした政府主導の改革に対して、万歳会長が居座ったままでは、組織内のけじめがつかないのは明らかだ。