YouTuberがカルチャー業界のいちポジションを築いて久しいが、彼らも世の中の移り変わりやトレンドに合わせて進化し続けている。
例えば、「キズナアイ」や「ミライアカリ」をはじめとしたバーチャルYouTuber(VTuber)は、かつては歌やトーク動画などをメインにしているケースも見受けられていたが、このところは「Apex Legends」や「BIOHAZARD」などのゲーム実況にシフトしている印象だ。
VTuberによるゲーム実況の影響力は企業からも注目されており、ゲーム業界大手のセガや任天堂は、VTuberグループ・にじさんじを運営する「ANYCOLOR株式会社」(旧社名:いちから)や、HIKAKINやはじめしゃちょーといった人気YouTuberが所属する「UUUM」と、著作物の利用に関する包括的許諾契約(ゲームを使った実況や配信を収益化するための契約)を結んでいる。
また、同じくゲーム業界大手のカプコンも、日本のみならずインドネシアや韓国でも注目を集めるVTuber事務所「ホロライブプロダクション」と同契約を締結した。
新人VTuber黒矣ねこはいやし系の音楽マニア? あるいは90年代サブカル好きの40代女性?
かように、マーケットを広げつつ大きな盛り上がりを見せているVTuber界隈だが、このところマニアの間で密かに話題になっている新人VTuberがいる。
「今年4月1日にVTuberデビューした、黒矣ねこ(くろいねこ)です。三つ編みのお下げヘアに花柄の袴を着た大正ロマン風のキュートな女性キャラで、『BIOHAZARD VILLAGE』や『リトルナイトメア2』といったゲーム実況動画をメインに投稿していますね。
業界内でも注目度が高いようで、メディア誌『コンプティーク』2021年5月号(KADOKAWA)では“大型新人VTuber”としてピックアップされていたのですが、新人にしては妙にトークがこなれているんです。とはいっても、場慣れ感丸出しのグイグイした雰囲気があるわけではなく、あたたかみのあるウィスパーボイスが基本の癒し系で、ホラーゲーム特有の不気味な世界観とのギャップがいい味を出しています」(カルチャー誌編集者)
また、黒矣ねこの動画には、ある“共通点”が存在するという。
「彼女のアップする動画には必ず英字でサブタイトルが付いており、各動画のタイトルはどれも、音楽好きならピンとくるようなものばかりなんです。ざっと気付くだけでも、おそらくニュー・オーダーやザ・スミス、XTCやEBTG、モノクローム・セットやスタイル・カウンシル、リトル・フィートにスティーリー・ダンといったアーティストの曲タイトルや歌詞の一節が引用されていて、動画の内容に応じたそれらの元ネタがわかると、思わずニヤリとさせられます。
さらには、
【ゲーム実況】リトルナイトメア2に挑戦!!其の壱 ~Let’s get on board!~
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“Let’s get on board”は現在不倫疑惑で話題の小沢健二のシングル『ある光』(1997年)
【ゲーム実況】BIOHAZARD VILLAGEに入村!!其の壱~misfortune comes like the moon~
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“misfortune comes like the moon”もフリッパーズ・ギターのアルバム曲『Boys Fire the Tricot』(1989年)
【ゲーム実況】BIOHAZARD VILLAGEに入村!!其の参~check the bullets in backyards~
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“check the bullets in backyards”はフリッパーズ・ギターのアルバム曲『THE CHIME WILL RING』(1989年)
などと、動画タイトルには、1990年代にブームを巻き起こした“渋谷系”ミュージシャン、特に、いま何かと話題の小山田圭吾と小沢健二によるユニット・フリッパーズ・ギターの楽曲のワンフレーズが頻繁に使われているんです。
黒矣ねこ本人、もしくは彼女の相棒として動画内や概要欄に登場する“黒猫の白”が、この時代に青春時代を送ったサブカル好きだったりするのでしょうか。もし本人が“渋谷系”好きなのだとすれば現在40代という可能性もあり、動画で黒矣ねこが話す若い女性の声とは齟齬が出てきてしまいますね(笑)」(前出・カルチャー誌編集者)
ゆるさが魅力のいやし系かと思いきや、一部には90年代のサブカル好き疑惑もあるなど、まだまだ謎の多い黒矣ねこ。今後、注目度が高まっていくにつれ、彼女の“正体”が判明していくのかもしれない。
(文=田口るい)