その陰で、長身野手が大成できないという現象が起こっている。以前からその傾向はあったが、共に読売ジャイアンツで4番打者を務めた経験を持つ松井秀喜と清原和博は188 cmであり、長身ながらも結果を残していた。しかし近年は、一時期と比べ、長身野手の活躍があまり見られなくなっている。
その理由を探ってみよう。まず、現役の長身日本人野手は以下の通りだ。
【日本人野手高身長ベスト10】
1位:大谷翔平(北海道日本ハムファイターズ)/193cm
2位:神戸拓光(千葉ロッテマリーンズ)/191cm
3位:鵜久森淳志(北海道日本ハムファイターズ)/189cm
3位:新井貴浩(阪神タイガース)/189cm
5位:大田泰示(読売ジャイアンツ)/188cm
5位:赤堀大智(横浜DeNAベイスターズ)/188cm
5位:新井良太(阪神タイガース)/188cm
8位:一二三慎太(阪神タイガース)/187cm
8位:又野知弥(東京ヤクルトスワローズ)/187cm
8位:柳田悠岐(福岡ソフトバンクホークス)/187cm
8位:坂口真規(読売ジャイアンツ)/187cm
この中で、タイトル獲得者は阪神の新井(貴)だけ。今年、シーズンを通して野手として目覚ましい活躍をしたのは、柳田くらいだろう。大谷は投手との二刀流であり、大田は6年目の今年終盤になって、ようやく頭角を現してきた。
なぜ長身野手は大成しにくい?
なぜ、長身野手は伸び悩むという現象が起こるのだろうか?
まず、長身野手はポジションが一塁や三塁、外野になることが多い。言い換えれば、外国人選手とカブるため、出場チャンスが激減してしまうのだ。
1950年の2リーグ分裂以降、93年まで外国人枠は1チーム当たり2人に限られていたが、2002年からは最大で野手は3人まで1軍登録が可能になった。そのため、日本人の入り込む余地が以前と比べて減っている。球団は外国人に“大砲”を求める傾向が強く、パワーヒッターを望まれる長身選手にとって不利な状況なのだ。
それでも、彼らは2軍において一塁や三塁、外野を守らされ、一発を期待される。そして、よほど打たない限り1軍のレギュラーになることは難しく、例えば2軍では一塁を守っていても1軍では不慣れな外野を守るなどのケースもあり、生き残りは困難を極めている。
そのような中で大谷、大田、新井(貴)、柳田が生き残れている理由を考えてみよう。
新井(貴)は、若手時代に過ごした広島東洋カープのチーム事情と時代性が大きく関係している。広島は90年代後半から00年代前半にかけてフリーエージェント(FA)で江藤智、金本知憲という大砲を流出させたが、当時のドラフトは逆指名制度だったため、有望な若手選手の獲得もままならなかった。大物外国人選手を獲る資金もなかったため、ドラフト6位ながら長距離砲に育つ可能性のある新井に懸けるのは必然ともいえた。
90年にジャイアンツに入団した大森剛と比べれば、対照性がさらに浮かび上がる。188cmの大森は96年終盤に大活躍。11.5ゲーム差をひっくり返してリーグ優勝した“メーク・ドラマ”の立役者のひとりだった。日本シリーズでも2本塁打を放ち、翌年以降のレギュラー定着が期待された。しかし、同年オフに西武から清原和博がFAで加入し、大森の出番は潰える。結局、大森は98年途中に近鉄バファローズ(現オリックス・バファローズ)に移籍し、その年に現役を引退している。FA制度や逆指名ドラフトがなければ、またはジャイアンツというチームでなければ、運命は変わっていたかもしれない。
大谷、大田、柳田の活躍は、現代野球の象徴という見方ができる。大谷はまさに50年に1人といえる規格外の選手であるが、その大谷の二刀流に代表されるように、現代野球では「打つだけ」という選手はほとんど求められていない。唯一、外国人大砲にだけ許された特権になりつつあるほどだ。
今季33盗塁を決め、ソフトバンクの優勝に大きく貢献した柳田はもちろん、大田も走力があるからこそ、原辰徳監督に起用されたという側面がある。9月17日の広島戦、1点ビハインドの8回、無死一塁の場面で代打・大田が告げられる。レスリー・アンダーソンや井端弘和も残っている場面での起用について、原監督は大田の走力を見込み「併殺打はない」との考えで送ったと明かしている。つまり、大田は自らの走力に助けられたのだ。とはいっても、彼らはまだ出始めたばかり。数年にわたり実績を残しているわけではない。
単に一発を見込める大砲というだけでは生き残れない。長身野手はよほどの規格外か、プラスアルファの特徴がない限り、プロ野球界で戦うことは厳しくなっている。
(文=編集部)