そんな折、周りのお客を見回すと、同年代とおぼしきおじさんたちがクダを巻きながら酒を飲んでいる姿を目にすることもあります。クダを巻きたくなる気持ちもわからないではないのですが、お気を付けいただきたいのは、そのときに呑んでいるのがレモンサワーだったりした場合です。しかも、おじさんたちは、グラスに入っている薄切りのレモンを、よせばいいのに割り箸などをつっこんで突いたりします。レモンが含んでいる(と信じている)ビタミンCを搾り出そうという、けち臭い感じが漂っております。
そのレモンが国産のオーガニックのものであれば問題ないのですが、残念ながら多くの場合、そのレモンはアメリカ産です。ということは、そのレモンにはポストハーベスト(収穫後に果物や穀物、野菜などに散布する農薬のこと)として有害な化学物質が使われています。ポストハーベストは日本では禁止されており、本来ならそのような農産物は輸入禁止となるはずですが、アメリカの強い圧力に屈した厚生労働省が、これらの農薬をなんと「食品添加物」として認めた結果、レモンやオレンジなど輸入かんきつ類の表皮に農薬が残留するという由々しき事態が続いています。
チアベンダゾール(Thiabendazole/TBZ)、エニルコナゾール(Enilconazole/イマザリル)、オルトフェニルフェノール(Orthophenyl phenol/OPP)、ビフェニル(biphenyl/悪名高きポリ塩化ビフェニルの親戚)などが防かび剤として使われており、ほかにもフルジオキソニル、アゾキシストロビンなどの薬剤も使われています。これらの多くは、複合的に使うのですが、単体でも強い毒性があるのに、混ぜて使えばもっと危険になることは明白で、誰もが不安に思うはずです。
輸入レモンを排除した食生活を
ではなぜ、こんな危ない農薬、薬剤、化学物質が、それも食品添加物として使われるようになったのかというと、それは政治的判断なのです。ことは、1970年代にまで遡ります。
当時、日本は自動車や家電製品をアメリカに輸出しようと躍起になっていたのですが、貿易の不均衡を解消するためにアメリカ側は果物などを日本が輸入することを交換条件にしてきました。
毒性が強いことで知られていたOPPは、そもそも農薬だったのですが、かんきつ類などの安全な輸送には欠かすことのできない薬剤として使われていました。日本の厚生省はOPPの使用を認めない方針でしたが、それを貫くとアメリカ側が自動車や家電製品の輸入を制限する制裁措置を取る可能性があったため、1977年4月にOPPの使用を認めたのです。
そして翌年8月にはTBZの使用も認め、その後は堰を切ったように次々と、毒性の高い薬剤を食品添加物として認めるという愚挙を繰り返したのです。筆者はよく、「食というのは極めて政治的な問題である」と申しておりますが、この一件にもそのことがよく表れております。
先日、内部告発サイト「ウィキリークス」が公表したところでは、アメリカ国家安全保障局(NSA)が、日本政府の中枢約35カ所を標的にして盗聴を行っていたようです。同盟国といいながら、アメリカが日本に対してどのような思惑を持っているかがうかがい知れる一件ですが、その報告書の中ではアメリカ以外にイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド(「ファイブ・アイズ」と呼ばれている)にも情報が提供されていたとされています。この5カ国は、互いに諜報活動を行わないという取り決めを結んでいます。純粋に消費者目線で考えて、このような国からの輸入食品をなんの疑いも持たずに食べろと言われても、それは無理という思いがあります。
皆さんは、どう思われるでしょうか。
それはともかく、居酒屋でレモンサワーを飲むときには「レモンなしでお願いします」と言ってオーダーしましょう。それをレモンサワーと呼んでいいのかどうかは別問題ですが。カフェに入って紅茶を飲む時にも「レモンもミルクもいらない。ストレートで」と言いましょう。
アメリカから国内に入って来るレモンなどなくても、私たちの食生活のレベルが落ちるわけではありません。ビタミンCを摂取する方法はほかにいくらでもあります。時々、国産のオーガニックのレモンが手に入ったときには、ありがたく感謝しつついただきましょう。
何を食べるかという選択は、私たちにとっての日々の投票行為でもあります。自分の意思を明確にして、自分や家族が食べるものを選ぶ基準を持つようにしましょう。
(文=南清貴/フードプロデューサー、一般社団法人日本オーガニックレストラン協会代表理事)