その店で筆者はアユの塩焼きを肴に冷酒を飲んだのだが、大の魚好きだったはずのカメラマンがアユに手を付けようとはしない。「アユは嫌い?」と聞くと、「大好きですが、養殖アユはどうしても手が出なくなってしまったんです」と言う。確かに、天然アユを一匹500円という安い値段で食べられるわけがなく、私も養殖アユだと思っていたが、「以前のような薬漬け養殖は行っていないだろうから大丈夫」と考えて注文したのだった。
それで、「まだ養殖アユは危ないの?」と再度聞くと、彼はこう答えた。
「去年の夏に、関東圏のアユ養殖場へ撮影に行ったのですが、異様に養殖池の水が青く、これは何か飼料に入れているなと直感したんです。それで、この6月の岐阜県の養殖アユの問題ですからね。とても食べる気にはなりません」
筆者も、それからアユに箸をつけることはできなかった。
養殖アユに使用された違法抗菌剤
6月27日、岐阜県池田町のアユ養殖場「池田養鱒場岐阜分場」の冷凍アユ、それを原料にしたレトルト食品「鮎ぞうすい」から、違法合成抗菌剤のエンロフロキサシンとフラゾリドンが検出された。そこで岐阜県は池田養鱒場ならびに販売業者に対し、出荷されたアユおよび鮎ぞうすいの回収・廃棄を命じた。
岐阜県西濃保健所の調査によると、池田養鱒場ではアユのシュードモナス病発生防止のため、2014年7月からこれらの違法合成抗菌剤を使用していたという。
養殖アユは池田養鱒場から岐阜県大垣市の卸業者に出荷。ここから同県養老町の「第一物産」と長野県飯田市の「信南サービス」に卸され、ここで鮎ぞうすいを製造して岐阜、愛知、三重3県の高速道路のサービスエリアやスーパーマーケットなどで販売されていた。
エンロフロキサシンは、牛、豚、鶏の細菌性呼吸器感染症や消化管感染症の治療に用いられる動物用医薬品だが、「飼料に含んではならない」と飼料安全法で定められている。食肉などにはエンロフロキサシンの残留基準値があり、牛、豚、鶏の食用部分で0.1ppm、乳で0.05ppm、肝臓や腎臓で0.1ppm、脂肪や筋肉で0.05ppmとなっている。他の食品から検出されれば、食品衛生法違反となる。もちろん、養殖魚への使用も禁止されている。