犬や猫などを飼う人にとって、ペットは家族の一員。コロナ禍で外出自粛が続く現在、ペットは癒しの存在となるだろう。しかし、ペットとの触れ合いが思わぬ事態を招くこともある。
筆者は薬剤師として働くなかでさまざまな相談を受けるが、ペットによる怪我に関するものも少なくない。犬や猫と戯れているときに、なんらかのアクシデントで咬まれてしまうことがある。咬まれた場所が赤く腫れてきたり、ズキズキと痛むので、薬を購入するために薬局を訪れたとの相談を受けることがあるが、市販薬では十分な処置とはいえないため、医師の受診を勧める。
健康な犬や猫の唾液には、カプノサイトファーガ・カニモルサス(Capnocytophaga canimorsus)という菌が存在する。咬まれる以外にも、犬や猫に舐められた箇所に傷などがあれば、そこからこの菌に感染することがある。感染後の潜伏期間は1~5日とされるが、14日程度と長い場合もある。発熱、倦怠感、腹痛、吐き気、頭痛などの風邪に似た前駆症状があり、重症化すれば敗血症となり、進行すれば播種性血管内凝固症候群(DIC)、敗血症性ショック、多臓器不全などで死に至ることもある。
敗血症以外では、髄膜炎が進行し死に至った例もある。敗血症例の約26%、髄膜炎例の約5%が死に至るという報告もある。発症すると重症化しやすい傾向にあることもこの菌の特徴であり、早期に適切な抗生物質による治療が必要である。
『うちのペットは大丈夫』と思うのが飼い主の心情であろうが、国内のイヌの74~82%、ネコの57~64%がカプノサイトファーガを保菌しているというデータもあるため、十分に注意してほしい。
猫や犬とのスキンシップで注意してほしいことがもうひとつある。それは“引っ掻き傷”である。犬や猫に咬まれるだけでなく、引っ掻かれた際に犬猫の爪に常在菌として存在するパスツレラ菌に感染することがある。傷が浅ければ赤く腫れる程度で、軽症で回復するケースが多い。しかし傷が深い場合は、風邪のような症状から骨髄炎となり重症化するケースもある。抗生物質による治療で速やかな回復が期待できるため、引っ掻かれた際はできるだけ早く医師の診察を受けてほしい。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)