「確かに施設の拡充も重要ですが、実際にケアをする介護スタッフを確保できなければ施設は機能しません。現在も不足していますが、なぜ介護スタッフを確保できないのかといえば、第一に待遇の低さが挙げられます。これは、待機児童問題で保育士不足が起きているのと同じ現象です」(同)
一般的に、需要が高まれば対価も増していくのが市場原理のはずだ。ところが、介護業界では介護スタッフの仕事に対する評価が不当なほど低い。
「介護の需要を考えれば、これだけ求めている人が多くいるわけですから、介護をする側の給料や待遇が良くなってしかるべきでしょう。しかし、介護保険制度ができたにもかかわらず、なかなかそうならないのは、『介護』が『労働として価値が低いもの』『誰にでもできるもの』と思われているフシがあるからです」(同)
介護業界、そして社会そのものに、「介護スタッフの給与を上げる」「高い給与を支払う」という意識が足りないのだという。
「介護は専門的な技術とスキルを必要とするものであり、医療関係者とサポート体制をつくるにあたってコミュニケーション能力も必要とされる、まさにプロフェッショナルな仕事。そういう社会全体の総意が重要です。ひいては、それが労働環境や待遇の改善につながっていくはずです」(同)
ただし、国の財政が潤っていなければ、公的支援における施設の拡充も介護スタッフの待遇改善もままならない。待機高齢者問題の根本は、国の経済状況と切っても切れないのである。
「経済が停滞している国は、産業も賃金も上向いていかないので厳しい。日本の場合、技術革新やモノづくりが得意なので、医療介護の分野などでもより高度なものをつくって海外に輸出し、産業のひとつとして押し上げていくべきでしょう。
日本には長寿国ならではの強みもあり、介護用具の開発も進んでいます。ものを持ち上げたりする際に体の負担を軽くするパワーアシストスーツなどが徐々に浸透していますし、介護用のベッドも高機能です。これらをさらに伸ばして、経済成長を目指していくことが望ましいのではないでしょうか」(同)
孤独死する高齢者がさらに急増か
そしてもうひとつ、特養に代わるような高齢者向け住宅を増やすことも考えなければならない。篠原氏によれば、今国が力を入れ、増えているのが「サービス付き高齢者向け住宅」というものだ。