待機児童の解消が各自治体の重要な課題になる中、同時に大きな問題になっているのが特別養護老人ホーム(特養)に入所できない「待機高齢者」だ。
高齢化の進行が世界一速いとされる日本は、それに伴って要介護高齢者の数も年々増え続けている。重度の要介護者を受け入れる介護施設も総じて足りていない。中でも、特養は介護保険の適用施設として社会福祉法人や地方公共団体が運営する公的な介護施設で、収入に応じて助成が受けられ、最期まで面倒を見てくれる。所得の少ない高齢者にとって“最後の拠り所”となる施設でもあるのだ。
しかし、2014年3月に発表された厚生労働省の「特別養護老人ホームの入所申込者の状況」によると、特養の入居申し込み者は約52万4000人もいるという。
今や、こうした「待機高齢者」が超高齢社会を迎える日本の重要な課題になっているのだ。待機高齢者問題は、どのように解決するべきなのか。ニッセイ基礎研究所・保険研究部主任研究員の篠原拓也氏に話を聞いた。
25年には待機高齢者がさらに増加か
まず、待機高齢者問題を考える上で無視できないのが、現代日本における家族のあり方の変化だ。
篠原氏は「昔の日本は、家族制度を前提として、家族が同居している高齢者を介護することが当たり前の社会でした。しかし、現在では核家族や単身世帯が増え、高齢の身内と同居するという発想が少なくなってきているのです」と語る。
そのため、現状は自宅でヘルパーに頼りながらなんとか生活していても、「もし、特養に入所できるのなら入りたい」と考えている高齢者がたくさんいるという。高齢者を介護する施設が必要とされるようになった背景には、そういう事情があるのだ。そして、この問題は25年以降、さらに深刻化すると考えられている。
「介護が必要な高齢者は主に70代後半から80代ですが、25年には戦後のベビーブーム世代がすべて後期高齢者(75歳以上)となるため、介護施設の整備が進まなければ、待機高齢者がますます増加すると予想されます。 現在よりも、さらに厳しい状況がやってくるのです」(同)
需要は高いのに待遇が低い介護スタッフ
厚労省の「平成27年介護サービス施設・事業所調査の概況」によると、特養の施設数は7551で利用率は97.4%に達している。すでに特養は満員状態で、受け皿が不足している状態だ。
しかし、待機高齢者は単純に施設の数を増やせば解決する問題ではない。篠原氏は「もっとも見過ごせないのは、深刻な介護スタッフ不足です」と指摘する。