仲良しと評判の家族、なぜ父は妻子6人を焼き殺したのか?なぜ父による子殺しは多い?
痛ましすぎる母子6人の犠牲者と父親
今月6日、茨城県日立市で母親と11歳の長女ら5人の子どもが火事で犠牲になる事件が発生しました。これだけでも恐ろしいほどに痛ましい事件です。しかし、続報ではもっと痛ましい真実が明かされました。火事は父親の放火によるもので、さらに放火の前には家族の刺殺を試みていたというのです。亡くなった全員に刺し傷や切り傷があったと報じられています。父親は供述で、特に長女に対しては明らかな殺意(殺害容疑)を語っているようです。
父親の同僚や近所の住民、学校関係者の話によると、仲が良さそうな家族に見えていたと報じられています。実は今年の6月にも福岡県で父親が妻子を殺す事件がありました。この家族も周囲には幸せそうに見えていたようです。なぜ、父親たちはこのような凶行に出てしまったのでしょうか。
その詳しい事情はわかりませんが、実は人は人に対して攻撃的になる本能的なシステムを持っています。このシステムが何かの理由で制御できなくなったのだと考えられます。
人は裏切り者には限りなく残酷になれる
あらゆる動物は生き残るためにリスクを察知して危険を回避するシステムを心に宿しています。人は人の中で生きる動物です。古代ギリシアのアリストテレスは人間とは「社会的な動物」であると言いました。社会的な動物として進化してきた私たち人類は、動物的なリスク回避のシステムを「社会」に特化して進化させました。
このシステムのひとつに「裏切り者探索モジュール」(越智/2016年)と呼ばれるものがあります。社会で安全に暮らすには、自分を脅かす社会的な脅威を排除しなければなりません。身近に裏切り者がいると、油断しているところを襲われかねません。そこで、無意識的に身近に裏切り者がいないかモニタリングしているのです。
そして裏切り者を発見したら、その排除に動機づけられます。すなわち裏切り者への攻撃です。攻撃性とはもともと自分に損害を与える対象を排除するための心理で、怒りがその原動力です。特に裏切り者は同じ社会のなかにいるものなので、安全に暮らすには完全に追放するか、裏切る力を削ぐしかありません。力を削ぐ方法のひとつが殲滅です。そのため、人は裏切り者を殲滅するために時にとことん残酷になれるようにつくられているのです。