長谷部誠、欧州名門クラブがフロントとして争奪戦の様相…その稀有な能力とは?
協調性と自己志向性
長谷部のメンタリティは信頼を獲得し、それを組織力に昇華する力を備えています。心理学的に表現すると「協調性と自己志向性を兼ね備える」といい表せます。協調性とは人を許すことも気遣うこともできて、組織の目標に協力できる力です。日本の企業でも強調されるものですが、これだけでは単に流されやすい人になってしまいます。流されやすいだけの人は往々にして無責任です。協調性に秀でているだけの人は、長谷部とはずいぶんイメージが違いますね。
そこで大事なことが自己志向性です。自己志向性は「自分はこれを成し遂げるのだ」という強い目的意識と自覚、責任感のことです。ただ、これだけに秀でた人は「俺が、俺が」に陥りがちで、往々にして唯我独尊に陥ります。実力はあっても上長には反発し、組織では孤立する。長谷部とはずいぶんイメージが違いますね。
長谷部に学ぶ兼ね備えにくいメンタリティを両立させる秘訣
実は自己志向性に秀でる人は協調性を持ちにくいのですが、長谷部は協調性と自己志向性を兼ね備える稀な30代だといえます。その秘訣を私なりに解釈すると、「成し遂げよう」とする目的意識を組織や仲間の目標を起点に設定しているからです。
長谷部はあるインタビューで「真面目にすれば信頼される」という信念を披露しています。ここでいう「真面目に」とは、組織や仲間の目標に全力でコミットすることだと思われます。サッカーでは監督も選手も「自分のスタイル」を持っているものです。仮に、有力者があなたの目標やビジョンに興味を持ち、理解する姿勢を示し、さらにあなたのスタイルに協力してくれたら、信頼したくなりませんか? 長谷部はこれを監督だけでなく、ほかの有力選手に対しても丁寧に繰り返してきたのだと思われます。
そして、監督やほかの選手のビジョン通りに事が運ぶことに責任を持つことができるのです。うまくいったときは監督やほかの選手の力、うまくいかないときは自分の責任。このような人物は、誰からも好かれることでしょう。
また、ポーランド戦では長谷部が出場してから日本は次善のプランになかった「時間の消費」という策に出ました。選手は自分のプレーをアピールしたいものですし、出場していれば勝ちたいものです。そのなかで即興であのようなチームプレイができたのも、「彼の言うことは間違いない」と信頼されている長谷部がいたからできたことでしょう。長谷部自身もサッカー選手としてのエゴは一切捨てて、チームに尽くしていました。