さて今回は、食品摂取の多様性と総死亡リスクとの関係である。
総死亡リスクとは、死をもたらす原因を特に限定しない“死”そのものの危険度のことである。死者を弔うための葬儀を営むためには、医師の死亡診断書がなくてはならない。そのため死因には何かしら病名がついてしまうことが多い。
ところが死をもたらす原因は、必ずしも病気とは限らない。真夏の夜の怪談話ではないが、未知の恐怖に襲われたことによるショック死もあるだろう。思いがけない悲嘆と落胆がもたらした注意欠如による、普通ならあり得ない事故死もあるだろう。いったいなぜ交通量が多い道路のこんな場所を横断したのだろうと思う、交通事故死のニュースを目にすることもある。自死を選ぶ原因もさまざまだ。社会問題化した過労死には人間社会が看過した不条理の蓄積も絡んでいる。
死亡診断書の死因が“死”をもたらした真実の原因ではないことは多々あるはずだ。原因を特定しない総死亡の危険度は、個別の病気を予防する手立てを実直に足しあわせても低減することはできない。生存することを阻み、人生を終焉させてしまう広範かつ意味深長なリスクが総死亡リスクである。
したがって、総死亡リスクを予知する事柄に対する考察は慎重でなければならない。観察する集団の属性は、とても重要な要因になる。年齢構成は若者が多いのか高齢者が多いのか、経済的な裕福度はどの程度か、男性と女性の割合はどうなのか、これらの社会人口学的な要因をしっかり吟味考慮する必要がある。
わが国は総死亡リスクを探索しようとする健康科学の研究が、世界的に見て少ない国である。この事情を踏まえ、筆者はシニアの総死亡リスクを予知する栄養要因を特定する研究を長く続けている。その成果の一部を紹介する。
食品摂取の多様性得点は総死亡リスクを単独で変動させる
D市で生活している平均年齢73歳の元気シニア1245名を7年間追跡した時の研究データがある。7年間に232名が亡くなっている。栄養要因と総死亡リスクの関係を見極める際、追跡を開始してから間もない死亡と、かなり経過してからの死亡とでは、その因果の解釈の仕方が大きく異なる。追跡開始後間もない死亡との関係は、食生活という生活習慣の影響というよりは、死を早める差し迫った原因が考えられるためである。調査に参加した時点ですでに重篤な病気などに罹患しているケースなどがそれにあたる。