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片田珠美「精神科女医のたわごと」

三田佳子・次男が覚せい剤で逮捕、三田の説明「統合失調症を抱え」に強い疑問を感じる

文=片田珠美/精神科医
三田佳子・次男が覚せい剤で逮捕、三田の説明「統合失調症を抱え」に強い疑問を感じるの画像1「Gettyimages」より

 次男が覚せい剤取締法違反(使用)の疑いで逮捕された件について、女優の三田佳子さんが報道各社にコメントを発表したが、私は違和感を覚えた。私が引っかかったのは、「統合失調症を抱え」という箇所で、本当に統合失調症なのだろうかという疑問を抱かずにはいられなかった。

 このような疑問を抱いたのは、次の2つの理由による。

(1)統合失調症の患者が覚せい剤を使用することはまれ。
(2)覚せい剤の使用によって発症する覚せい剤精神病では、幻覚や妄想など、統合失調症に類似した症状が認められる。

(2)については解説が必要だろう。覚せい剤を体内に取り込むと、脳内のドーパミンという神経伝達物質が過剰になり、それによって幻覚や妄想が出現するのが覚せい剤精神病である。一方、統合失調症も、ドーパミンの過剰によって発症すると考えられている(ドーパミン仮説)。

 ドーパミンの過剰が覚せい剤によって引き起こされるのか、それとも統合失調症によって引き起こされるのかという違いがあるだけで、臨床症状がよく似ているので、ときには鑑別診断が難しい。たとえば、路上で刃物を振り回しながら暴れている人が警察に保護され、幻覚や妄想が認められると、精神科病院に入院させられるが、本人が覚せい剤を使用していた事実を隠していれば、統合失調症と診断される可能性がある。

 当然、精神科医は腕の注射痕を確認する。だが、最近は「あぶり」と呼ばれる加熱吸引や、錠剤の経口摂取が増えているので、注射痕があるとは限らない。だから、覚せい剤の使用によって幻覚や妄想が出現したのに、統合失調症と誤診されることがないわけではない。

 もちろん、臨床症状には違いがある。まず、覚せい剤精神病では幻視が多いのに対して、統合失調症では幻聴が多い。また、妄想内容も、覚せい剤精神病では本人が置かれている状況に反応したものが多いのに対して、統合失調症では現実離れした荒唐無稽なものが多い。このような微妙な違いを観察しながら、診断するわけだが、臨床経験を積んだ精神科医でも判断に迷うことがある。

片田珠美/精神科医

片田珠美/精神科医

広島県生まれ。精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。パリ第8大学博士課程中退。京都大学非常勤講師(2003年度~2016年度)。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析学的視点から分析。

Twitter:@tamamineko

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