2020年7月1日、「NAVERまとめ」の公式ブログで同年9月30日をもってNAVERまとめはサービスを終了すると発表された。
LINEの子会社、ネクストライブラリが運営するNAVERまとめは、インターネット上のさまざまな情報をテーマに沿って集約し、それを記事として共有するサービスだ。公式ブログでの記述によると、サービス終了の理由は「サービス環境・市場環境の変化による単独サービスとしての今後の成長性」「LINEグループ全体での選択と集中の観点」などを踏まえた結果だとされている。
グーグルなどの検索エンジンを利用した際、検索結果上位にNAVERまとめで作成された記事が表示されたので、名前に見覚えがあるという方は多いだろう。しかし、実際にどんなサービスであったのかを詳しく知らない方は、意外と少なくないのではないだろうか。
そこで今回はITジャーナリストの高橋暁子氏に、NAVERまとめが誕生した理由やその変遷、インターネット社会に残した功罪について聞いた。
NAVERまとめの原点は情報収集の簡便化にあり
NAVERまとめは2009年7月1日にサービスを開始。当初はLINE(当時はNHN Japan)の子会社であるネイバージャパンが運営していたが、12年1月1日の親会社との経営統合に伴い移管。17年11月8日にネクストライブラリへと事業が継承された。
では、運営開始当初のNAVERまとめはどのようなサービスを目指してスタートしたのだろうか。
「NAVERまとめはインターネット上に情報が溢れかえり、欲しい情報にたどり着くために検索のテクニックが求められるようになっていたなかで、情報検索の簡便化を目的にサービスが開始されました。ユーザーが作成したまとめにアクセスすることで、誰でも容易に求めていた情報が手に入れられるというのが、当初NAVERまとめが目指していた利用方法でした。
現在も、手っ取り早くまとまった情報を得たいという方が利用されています。一方で、まとめを編集する方のなかには、閲覧数などによるインセンティブで収益を得るためや、誰かを晒し者にするために使うというユーザーも存在しますね。ただ、アドセンス広告を設置したブログなどと比較すると圧倒的に利率が悪いので、副業として本腰を入れて活用されるという方はあんまりいらっしゃらないようです」(高橋氏)
まとめサイト作成に特化したウェブサービスの先駆者として登場したNAVERまとめは、やがてキュレーションメディアとして舵を切ることとなった。
「同時期に『Togetter(トゥギャッター)』や『ONETOPI(ワントピ)』などの似たようなウェブサービスが生まれ、情報を集めて整理する“キュレーション”の概念が一気に注目を浴びることとなりました。
NAVERまとめを含むキュレーションメディアの特徴は検索エンジン最適化、すなわちSEOに強いことにあります。コンテンツにボリュームがあり、更新頻度が高いことからグーグルなどの検索サービスのアルゴリズムと合致し、検索結果の上位に表示されやすいのです」(高橋氏)
大手企業が参入するなど、キュレーションメディアはその市場規模を拡大していったが、16年末に転機が訪れる。DeNAが運営する医療系キュレーションメディア「WELQ(ウェルク)」が、医学的根拠のない記事を大量に掲載していたことが明らかになったのだ。
「眉唾ものの医療情報、ひどいものでは健康被害が出るような情報を載せた記事が無責任に掲載され、検索すると上位に表示されるという状態が世界的に問題となりました。その結果、グーグルが検索アルゴリズムを変更し、NAVERまとめを含むキュレーションメディアの検索順位が下げられることになったのです。このあたりから、キュレーションメディアを批判する論調が強くなっていきましたね」(高橋氏)
グーグルの検索順位で上位を取れなくなっていったことや、キュレーションメディア自体への批判が、NAVERまとめの“終わりの始まり”だったのかもしれない。
最大の問題点は著作権保護への意識の低さ
必要としている情報を簡単に集めることができるようにと生み出されたNAVERまとめは、キュレーションという概念の普及によって、キュレーションメディアとしての色合いが濃くなっていった。しかし、NAVERまとめには著作権に関する、深刻な問題が内在していたという。
「NAVERまとめで作成された記事のなかには、出典元を明記する必要がなかったこともあり、個人やほかのメディアが掲載した記事や画像を無断で転載していたという例が多く存在しました。悪意のあるまとめ記事だけでなく、権利者の手を煩わせるようなNAVERまとめ運営の対応の悪さが、大きく取り沙汰されたことも少なくありません。
例えば、『クックパッド』では人気のあるレシピを表示する機能が有料コンテンツとして実装されているのですが、その人気レシピがNAVERまとめでまとめられたことが問題となりました。結果的にこの件は、2013年5月31日までに掲載されたクックパッドのコンテンツを利用した記事を公開停止し、その後もまとめ作成に制限をかけることで対処されました。
個人だけでなく大手メディアからも批判された著作権侵害の問題について、NAVERまとめが本腰を入れて取り組み始めたのは、WELQ問題が発生した後の17年からと、わりと近年のことでした。このいい加減とも取れる著作権保護の対応の遅れは、NAVERまとめで最も大きな問題点といえます」(高橋氏)
批判を浴びることもあった運営姿勢も、サービス終了の原因の一つだったのではないだろうか。そんなNAVERまとめだが、インターネット社会に何をもたらしたのか。
「NAVERまとめ最大の功績は、それまではあまり注目されていなかったキュレーションという概念を広め、キュレーションメディアに価値があるということを示したことにあります。WELQのように問題のあるサービスも生まれてしまいましたが、後発のキュレーションメディアを誕生させるきっかけをつくり出したこと自体には大きな意味があったと思いますね。
また、NAVERまとめで発生した著作権の問題は、『YouTube』や『Tik Tok』のように契約を結んで使用できるようにする、権利者の申請で停止できるようにするなど、対応策を講じているメディアも多いです。今後は最初から各種メディアと契約を結ぶ、一次ソースとして利用される記事に収益をもたらすなど、著作権の諸問題を考慮した規約のキュレーションメディアが登場してくるのではないでしょうか」(高橋氏)
キュレーションの概念を普及させるのに一役買い、無断転載といった著作権の問題を浮き彫りにするなど、さまざまな功罪を残してまもなくサービスを終えるNAVERまとめ。検索事業にNAVERまとめのノウハウを活かそうとしているLINEの行く末だけでなく、後発のキュレーションメディアがどのようなかたちで姿を現わすのかも注目されるところだ。
(文=佐久間翔大/A4studio)