「スマホを使うほど、学力が下がります」――。
これは、日本医師会と日本小児科医会が今年2月に発表した啓発ポスターに出てくるフレーズだ。ポスターには、子どもがスマートフォン(スマホ)を使用することによる悪影響が列挙されている。
医師たちが会員である2団体が「スマホは危険だ」とでも言わんばかりの表現を行ったため、インターネット上には疑問の声が相次ぐなど、大きく注目された。はたして、「スマホを使うと学力が下がる」は本当なのか。
日本医師会自らが医学的根拠を否定…
「体力──体を動かさないと、骨も筋肉も育ちません」
「睡眠不足──夜使うと睡眠不足になり、体内時計が狂います」
「視力──視力が落ちます」
これは、件の啓発ポスターに書かれている文章だ。メインコピーは「スマホの時間 わたしは何を失うか」。公益社団法人の日本医師会と日本小児科医会が連名で作成したもので、スマホ使用によって「失われる」ものが、イラストやグラフ入りで6項目も提示されている。ほかの3項目は、以下の通りだ。
「コミュニケーション能力──人と直接話す時間が減ります」
「学力──スマホを使うほど、学力が下がります」
「脳機能──長時間使うと、記憶や判断を司る部分の脳の発達に遅れが出ます」
なかでも気になるのは、やはり「スマホを使うほど、学力が下がります」と言い切っていることだろう。この項目には2つのグラフが添えられており、小学校6年生と中学校3年生が、スマホ使用時間が増えるほど各教科の平均正答率が下がっていることが示されている。
この悪影響の数々は、事実なのか。日本小児科医会に問い合わせを行った。
まず、「『スマホを使うほど学力が下がる』という医学的根拠はあるのか?」という質問には、「スマホとの接触時間と学力低下の相関関係は、文部科学省が行っている全国学力調査結果公表時に同時に実施しているアンケート調査と合わせ、文部科学省が同様の指摘を行っております」との返答だった。
文部科学省のアンケート調査を根拠としているようだが、有用なデータには違いないものの、これは「医学的根拠」とはいえないのではないだろうか。
続いて、「『スマホを長時間使うと、脳機能に悪影響がある』という医学的根拠はあるのか?」と聞くと、「東北大学で行われている研究報告を基に今回のポスター内容を企画しております」と説明。さらに、「東北大学の川島隆太教授、瀧靖之教授の著作等を参考にしてください」と勧められた。
川島教授といえば、「音読や単純計算が脳を鍛える」という学習療法を提唱し、「脳トレ」ブームのときに盛んに取り上げられた人物である。
最後に、「それなら、子どものスマホ利用はどのくらいの時間が好ましいのか?」と質問。すると、「『スマホ』に限定した利用時間ではなく、メディア(テレビ、DVD、電子ゲーム、携帯、スマートフォン、タブレット端末等電子映像メディア機器を指します)へ接触する総時間を制限することが重要と考えており」と前置きした上で、「1日2時間を目安とすることをお勧めしております」と回答した。