タワーマンションに引っ越してからネット回線の遅さに悩まされているという人のつぶやきが話題になっている。中には「ネット回線の速度が不満だから引っ越した」という人も少なからずいるようで、タワーマンション生活における意外な盲点となっているようだ。
話題となっているのは、8月14日にX(旧Twitter)に投稿された書き込み。「マンションのネットが遅すぎるのでサポートに電話したら、ルータの設定を見直してくれとか、IPアドレスというものがあって…みたいな話を聞かされたんだけど、そもそも200戸で1Gbps共有らしい。そりゃ遅いわ…」という内容で、投稿者は「この不動産会社のタワマンシリーズはどれも建物全体で1Gbpsとのこと。タワマンの闇だわ…」とあきれた様子で不満を訴えている。
タワーマンションは戸数が多いにもかかわらず、共有回線の速度が非常に遅いケースがあるようだ。また、タワーマンションの高層階は回線工事が困難であることから光回線の「戸建てタイプ」が導入できないことが多く、その場合はどうしても他の住人たちと回線を共有しなくてはならないという事情もある。そのため、夜間など住民のネット利用が重なる時間帯は特に遅くなりがちなようだ。
成功者の証のようなイメージがあるタワーマンションだが、かねてから「朝のエレベーター渋滞」「災害時に逃げづらい」「地震の時の揺れが大きい」などのデメリットが指摘されていた。今回話題になった「回線速度の遅さ」はネット社会において致命的になることもあり、意外な盲点だったといえそうだ。
実は今回の書き込み以前から、ネット上ではタワーマンション住民たちが「35年ローンで購入したのに、子どもたちから『ネット回線が遅くて、オンライン対戦ゲームのタイムラグがひどくて勝てないから引っ越したい』と言われた」「タワマンに住んでからYouTubeの動画が視聴中にブツブツ切れるし、仕事のオンライン作業にも支障があるレベルだったから引っ越しを決意した」といった体験談を記していた。
タワーマンションにおけるネット回線問題の現状や対策について、住宅ジャーナリストで榊マンション市場研究所主宰の榊淳司氏に見解を聞いた。
「マンションのネット環境については法的にこれといった決まりはなく、以前は回線速度が問題になるようなことはほとんどありませんでした。しかし、コロナ禍によって在宅率が上昇し、多くの住人がテレワークを始めたことで『遅い』『切れる』といった悲鳴が急増しました。また、最近はNetflixやAmazon Prime Video、YouTubeなどの動画サービスが浸透したことで各戸のデータ使用量が激増し、従来の仕様では堪えられなくなったマンションも多いと推測されます」(榊氏)
すべてのタワーマンションに「ネット遅すぎ」問題がつきまとうのだろうか。
「コロナ禍後にネット回線の工事をしたタワーマンションであれば、それなりに住人たちの使用に耐えうるような仕様にしているはずです。ただし、ディベロッパーがよほど無頓着でなければの話なので、ケースバイケースともいえます。また、コロナ禍以前に建てられたタワマンは、ほとんどが容量不足に陥って何らかの対応を迫られているはずです」(同)
賃貸ならまだしも、分譲となれば「一生に一度の買い物」ともなるタワーマンション。後悔しないために、事前にネット回線の速度を確認することはできるのだろうか。
「新築のタワーマンションであれば、仕様書などで確認できます。中古の場合は仲介業者を通して、管理会社から情報を得られるはずです」(同)
購入してからネット回線の遅さに気づいた場合、住人はどうしたらいいのだろうか。
「オーソドックスな対応としては、マンション管理組合を通して全体的な速度や通信容量をアップする方向に持っていくべきですね。しかし、これには管理組合の総会で決議を得るなどの面倒な手続きが必要です。私が知る限り、小さなマンションであれば各住戸で十分な速度の回線を個別に利用できる場合もあるなど、対応が容易なのですが、タワマンなどの大規模マンションは総会で決議を求めるにしても戸数が多くてかなり困難です。はっきり言ってしまうと、ほぼ対応不可能な場合もあります」(同)
泣き寝入りにならないためにも、タワーマンション購入前の住環境チェックのひとつとして「ネット回線の速度」は十分に調べておいたほうがよさそうだ。
(文=佐藤勇馬、協力=榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト)